人口減少や高齢化に伴いスーパーマーケットの市場環境が厳しさを増すなか、東海地方に出店する、関東や北陸など他の地域を地盤とするスーパーが相次いでいる。人口が多く、安定した所得がある人も多い名古屋などを中心に事業を伸ばす狙いがあるが、地場を含めた競争もまた、厳しさを増している。
「日本版コストコ」とも呼ばれる食品スーパー「ロピア」(川崎市)が5月15日、名古屋市内2店舗目となる千種店を中区にオープンした。
開店初日の特売商品のひとつ、1パック5枚入りの国産若鶏モモ肉「メガ盛り」(100グラムあたり59円)には人だかりができ、一時は陳列が追いつかないほどの盛況ぶりだった。
愛知県弥富市の松永知也さん(34)は2児の父。普段は桑名店に買い物に行くといい、「お肉が安く、食べ盛りの子どもがいるので助かる」。近くに住む西浦久美子さん(69)は「いつも行くスーパーにない商品が並んでいて面白い。こちらの店にも通うことになりそう」と話す。
首都圏を中心に展開するロピアは、大容量の商品を低価格で販売するのが強みだ。決済は現金のみで、クレジット決済などで生じる手数料負担を省き、大容量パックで売ることで加工の手間を減らす。ペットボトル飲料を常温で販売することで電気代を抑えるなど、地道なコストカットを重ねて価格を抑える。
これまでに愛知、岐阜、三重の東海3県で7店舗を展開しており、今後も、人口が集中する名古屋圏を中心に年4、5店舗のペースで出店を狙うという。
北陸3県を地盤とするスーパー「アルビス」(富山県射水市)は昨年11月、名古屋市に2店舗目となる「北区金田店」をオープンした。日本海の鮮魚や魚を使った総菜を売りにする。2023年度の愛知・岐阜両県での売上高は前年度比25%増の約54億円と、店舗数の拡大とともに売り上げを伸ばしている。今年度も岐阜県内で2店舗目の出店を予定する。
関西を地盤とするスーパー「平和堂」(滋賀県彦根市)も4月に愛知県日進市に新たに出店するなど、名古屋市や周辺などで出店を続けている。
迎え撃つ側は、他地域からの攻勢に神経をとがらせる。あるスーパーの関係者は「陳列された商品を見れば、各社とも気合を入れて出店してきていることがわかる。地場のスーパーには脅威だ」
アオキスーパー(名古屋市)は今年、経営陣による自社買収(MBO)を実施した。5月2日に上場廃止となり、経営改革に本腰を入れる。既存店舗の改修のほか、アプリの機能拡充やキャッシュレス決済への対応を進めて、店の魅力向上に磨きをかける。
ヤマナカ(名古屋市)は生鮮・デリカ部門の強化を図る一方、スーパー「バロー」などを展開するバローホールディングス(岐阜県多治見市)は、人口の多い関西方面での出店を強化する方針だ。
業界の動向に詳しい流通アナリストの中井彰人さんは東海地方をめぐるスーパー事情について、「高齢化と人口減で消費の減少が見込まれる中、一定規模の人口が集まり、車で買い物に行く人の多い名古屋周辺に出店する流れは今後も続くだろう」と分析。地場のスーパーの生き残り策としては、地元の生鮮品を旬に合わせて細やかに仕入れるなど、「身近な人に愛される店作りが一層重要になる」と指摘する。そのうえで、「消費者にとっては各社が競いうことで良い選択肢、商品が増え、サービスも向上する。決して悪い話ではない」とみている。(伊藤舞虹)
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