帝人子会社で電子コミック配信を手掛けるインフォコムは18日、米投資会社のブラックストーンによるTOB(株式公開買い付け)に賛同すると発表した。TOBが成立すればインフォコムは上場廃止となる。電子コミックは成長市場でインフォコム買収には複数社が名乗りを上げていた。コンテンツへの投資に実績があるブラックストーンの傘下で知的財産(IP)の活用を強化する。

1株当たりの買い付け価格は6060円。買い付け期間は19日から7月31日まで。インフォコム株の6割弱を保有する帝人はTOBには応募せず、TOB成立後、自社株買いに応じる形で全保有株を売却。ブラックストーンはTOBと帝人保有分の買い取りを合わせて総額2750億円で全株式を取得する。買収手続きは10月上旬に完了する予定だ。

インフォコムの「めちゃコミック」は3月末時点で2100万人以上の会員数を抱える国内最大級の電子コミック配信サイトだ。女性向け作品に強みを持ち、読者層は30〜40代の女性が主力。2019年には韓国の同業のピーナトゥーンを買収するなど海外でも事業を拡大している。

電子コミック事業の他に、医療機関向けの放射線情報システムや看護師の就業管理システムなどITサービス事業も手掛ける。

インフォコムを巡っては、ソニーグループ子会社や投資会社など13社が買収に手を挙げていた。

ソニーグループの音楽子会社ソニー・ミュージックエンタテインメントは投資ファンドと組み、インフォコムの買収を検討していた。ソニー・ミュージックは人気アニメ「鬼滅の刃」を手掛けるアニプレックス(東京・千代田)を傘下に持つ。インフォコムの「めちゃコミ」を取得して漫画事業を拡大し、有力なアニメの原作を確保する狙いがあったとみられる。

電子コミックは、もともと漫画雑誌などに掲載されたコンテンツの電子化から始まったが、近年は電子コミック発の作品も増えている。運営会社がIPを持つことで作品のアニメ化や関連グッズなどIPを多方面に展開しやすい。

ブラックストーンは米ウォルト・ディズニーの元経営陣らが設立した米キャンドルメディアを傘下に持ち、IPを持つ企業を買収するプラットフォームとして世界展開するなど、IPの価値を最大化するノウハウを持つ。インフォコムのIP活用や海外展開を支援する。

帝人がインフォコムを売却するにあたり、インフォコム側が懸念していたのは電子コミック事業とITサービス事業が分離されることだった。今回、ブラックストーンは買収後2年間は電子コミック事業とIT事業を切り離さないことを了承し交渉がまとまった。

帝人は18日、2025年3月期(国際会計基準)の連結売上高に相当する売上収益が9750億円(従来予想は1兆500億円)、営業利益が160億円(同260億円)になると発表した。インフォコムが連結から外れることで売上高、営業利益とも減る。純利益については精査中。

売却で営業利益100億円の下方修正になったように、帝人にとってインフォコムは本業である材料事業の不振を補う存在だった。ただ、電子コミックは本業とは相乗効果が薄い。帝人の社内IT部門を母体に始まった経緯から帝人の情報システムの運営を担っているが、以前から親子上場の是非について議論しており売却を決めた。

帝人が保有する株式の譲渡価額は約1300億円を見込む。24年3月末時点で帝人が抱える現預金と同規模だ。この資金の使い道に市場は注目している。

(石坪真衣、藤生貴子、佐藤諒)

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