ソーダやポテトチップスのような超加工食品は多くの健康問題と関連しているが、摂取をやめるのはたばこをやめるのと同じくらい難しいかもしれない。(PHOTOGRAPH BY DAN KITWOOD, GETTY IMAGES)

ポテトチップスの大袋をいつの間にか完食してしまったり、思っていた以上にドーナツを食べてしまったりした経験がない人はいないだろう。この現象の原因が、意志の弱さではなく「超加工食品依存症」という状態にあることを示す証拠が集まってきている。

超加工食品(高度に加工された食品)には、袋菓子、朝食用シリアル、ほとんどのファストフード、大量生産されたパンやデザート、ソーセージ、ホットドッグ、冷凍魚フライ、ソフトドリンク、アイスクリーム、キャンディーをはじめ、包装されてスーパーに陳列される多くの食品が含まれていて、米国の成人が消費するカロリーの60%近くを占めると推定されている。

超加工食品は、人によってはたばこやアルコールなどの物質使用障害で見られるのと同じような渇望や強迫的消費を引き起こし、依存性がある。実際、さまざまな国で得られた多数の調査結果を分析した研究によると、成人の20%、子どもや青少年の15%が、超加工食品への依存を示す基準に当てはまるという。

工場で製造される超加工食品は、家庭の台所で調理される食事に比べて脂肪分、糖分、塩分が多く含まれる。「ほかにも味などを増強する成分がいくつも添加され、抗いがたい魅力が付け加えられています」と、食品依存について研究している米ドレクセル大学の心理学・脳科学教授のエバン・フォーマン氏は言う。

「超加工食品は脳の報酬系を強く活性化させます」と氏は言う。「私たちは自由意志で食べるものを決めていると思っていますが、多くの場合は違います。人々はそのことに気づいていないのです」

脳の報酬系を刺激する

ある種の食品が依存的な行動を引き起こすことは数十年前から知られていた。ラットを使った1980年代の研究で、報酬の餌を得るためにレバーを押すときに、ラットの脳内のドーパミン報酬系が大幅に活性化することが示されたのだ。これは、ラットにコカインを与えたときと(そこまで強烈ではないにせよ)同様の反応だった。

しかし、食品の依存性が本格的に研究されるようになったのは、この10年ほどのことだ。米国の成人の肥満率が42%まで急増し、食をめぐる環境のどの部分の変化に原因があるのか解明する取り組みが始まった結果、超加工食品依存症の影響を無視できなくなった。

人類の進化の歴史を通じて、脂肪分や糖分を多く含む食物を探し求める行動は生存に欠かせなかった。そのため、そうした食物を摂取するとドーパミンが放出されて脳の報酬系が活性化されるように進化してきた。

「超加工食品だらけの現代の食環境で、私たちの脳は、有害な経験や物質を、生存にとって有利になるものと勘違いしているのです」と、米ロサンゼルスの管理栄養士で食品依存の研究者であるデビッド・ウィス氏は言う。

超加工食品は「報酬となる成分を不自然なほど大量に、不自然なほど手軽に、しばしば不自然なほど多種類を含んだ組み合わせで提供します」と米ミシガン大学の心理学教授で、この分野の主要な研究者であるアシュリー・ギアハート氏は説明する。

たばこと同じ依存性の基準を満たす

ギアハート氏は、渇望は依存症の重要な特徴だが、超加工食品ではよく見られると言う。「あるとき無性にブロッコリーが食べたくなって買いに走ったという話は聞きませんが、どうしてもドーナツが食べたくなって、ガソリン代も苦しいのに車で40分もかかるお店に行って、2型糖尿病なのに駐車場で1箱ぺろりと食べてしまったというような話は聞くでしょう」

離脱症状(禁断症状)も依存症の要素の1つだ。フォーマン氏らが2024年5月18日付けで医学誌「Current Obesity Reports」に発表した最新の研究によると、超加工食品の摂取をやめたときに離脱症状が起こることを裏付ける、予備的な証拠が得られたという。

「超加工食品の摂取をやめさせると、ラットでは歯をカタカタと鳴らしたり、ヒトでは頭痛や疲労感やイライラを訴えたりするようになったのです」とフォーマン氏は説明する。

ギアハート氏らは2022年に医学誌「Addiction」に発表した研究で、超加工食品が、強迫的な使用、多幸感など精神に影響を与える作用、それを得るための行動の強化という、依存性の3つの基準を満たしていることを示した。これらは1988年の「米国公衆衛生総監報告書」でたばこ製品の依存性を判断した基準と同じだ。2022年の研究では、超加工食品はこの3つに加えて、渇望を引き起こすという新しい基準も満たしていると結論づけている。

健康に悪く、食べ過ぎてしまう

超加工食品を多く消費するのは、心臓病、2型糖尿病、肥満、うつ病、不安障害、さまざまな原因による死亡のリスクの増加など、多くの健康問題と関連している。2024年5月17日付けで医学誌「JAMA Network Open」に発表された研究では、超加工食品を多く食べる子どもたちほど、血液中の善玉コレステロール値が低く、空腹時の血糖値が高いことも明らかにされている。

超加工食品の摂取は体重の増加につながりやすいが、これはおそらく意図した以上に食べ過ぎてしまいやすいからだろう。20人の参加者を超加工食品グループと非加工(自然)食品グループに無作為に分け、それぞれの食品で作ったメニューを用意して2週間好きなだけ食べるように指示した研究では、超加工食品グループは毎日500キロカロリーも多く摂取していた。

超加工食品がもたらす最大の問題の1つは、その強い味や心地よい口当たりに慣れ親しんでしまうと、自然食品に満足できなくなってしまう点にある。

「実際、レンズ豆やブロッコリーを好まないティーンエージャーが育ってきています」とウィス氏は言う。

コントロールを取り戻すには

超加工食品への依存症を防ぐために、ギアハート氏は、明確な栄養情報の表示と、たばこのような警告表示の義務化を望んでいる。それが実現するまでは、消費者は自然でない成分をなるべく含まない食品を選ぶように努力するしかない。子ども向けの広告を止めることも重要だ。

超加工食品が人気なのは、料理をする時間がない人にとって非常に便利だからでもある。そのためギアハート氏は、超加工食品がもたらすさまざまな疾患の治療費を負担させられている保険会社が、自然食品で作った料理の宅配サービスを補助する日を夢見ている。

深刻な超加工食品依存症の人をどう治療するかについては、まだ答えが出ていない。オゼンピックなどのGLP-1受容体作動薬が有効ではないかと指摘する人もいる。こうした薬の利用者から、嗜好性の高い食品への渇望が減るという報告があるからだ。

ウィス氏らが2022年に医学誌「Frontiers in Psychiatry」に発表した予備的な研究では、グループおよび個人での週1回の教育的・心理的サポートと自然食品の摂取計画を併用する治療法の効果が示されている。

ギアハート氏は、超加工食品をめぐる問題の将来について楽観的だ。「かつての人々はたばこの害に無関心でしたが、今は違います。超加工食品の害にもそのうち気づくはずです」

文=Meryl Davids Landau/訳=三枝小夜子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2024年6月5日公開)

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