「ええ! 驚きしかない」「シメサバは今後どこで買えばいいんだ……」
青森県八戸市の水産加工会社、マルカネが1月9日付で倒産を公表すると、SNS上には驚きや悲しみの声が広がった。
八戸市は「八戸前沖さば」ブランドを擁するサバの一大産地だ。だが、2022年のサバの水揚げ量は2060トンと18年比で実に95%も減った。マルカネもサバ不漁にあえぎ、製造コストの上昇などが重なって倒産に追い込まれた形だ。
「令和5年度も昨年度に引き続き、ブランド認定を見送ることとなりました」。八戸前沖さばブランド推進協議会(同市)は24年1月末、ホームページ上でこう報告した。小型で脂肪分の少ないサバが目立ち、ブランド認定には満たない水準だったという。
宮城県石巻市の石巻港で取れるサバのブランド「金華さば」も影響が深刻だ。石巻魚市場(石巻市)の佐々木茂樹氏は「今季、サバが水揚げできたのは今のところ23年12月26日の1日だけ」と話す。
石巻港では例年、脂の乗りや鮮度の良さといった基準を満たすサバがまとまって取れる10〜11月ごろにシーズン到来を宣言してきた。だが近年、その時期が遅くなっている。22年は12月22日、23年は12月26日までずれ込んだ。
漁期も極端に短くなっている。翌年の2月初旬までサバが取れていたが、「今シーズンはイワシしか取れない」と佐々木氏は嘆く。同市内ではサバ不漁を受けて、加工品の原料をイワシに切り替える業者も目立ってきたという。
サバは日本における魚種別の漁獲量で長年2位を維持してきた。だが22年にホタテガイに抜かれ3位に転落した。その影響として指摘されるのが、猛暑などの異常な気象、いわゆる「極端気象」だ。
水産研究・教育機構の由上龍嗣氏は、日本列島を覆うサバ不漁の要因について、「黒潮続流の影響が大きい」と指摘する。
黒潮は東シナ海を北上して日本近海を流れる暖流の代表だ。この黒潮と、千島列島から南下してくる寒流の親潮がぶつかることで、日本近海に豊かな漁場をもたらしている。黒潮のうち、日本南岸に沿って房総半島沖から東向きに流れる潮が黒潮続流だ。この流れが近年、沿岸寄りかつ北向きに変化したことで日本近海の漁場で海水温が下がりにくくなっているという。
サバは海水温が20度を超えるとエサを食べなくなる性質を持つという。例年、冬のシーズンに低くなった海水温とともにサバが南下してくることで、八戸沖や石巻沖などを豊かな漁場にしてきた。だが黒潮続流が変化したことで、海水温が下がりにくくなり、サバの南下時期が遅れたり、漁期が短くなったりしているのだ。
こうした状況は「1年以上継続しており、少なくとも過去50〜60年は観測されてこなかった」と由上氏は打ち明ける。海水温が下がりにくくなっている要因について由上氏は「温暖化が影響しているのではないかとの見方が広がりつつある」と語る。
黒潮続流の正常化がいつになるのか。サバの回遊経路がどのように変化し、新たな漁場はどこなのか。その点がすぐに解明できるかは不透明だ。その間、指をくわえて待っていては、サバ事業を営む事業者の経営体力がむしばまれてしまうリスクをはらむ。
対策に動く企業も現れた。
水産大手のマルハニチロでは国内のサバ不漁を受け、「ノルウェー産サバ煮付・みそ煮の販売を促進している」(担当者)と打ち明ける。国内産サバを使った商品価格の値上げや一時的な販売休止を余儀なくされる中、同社はイワシやサンマなど、他魚種の缶詰商品の販促にも力を入れている。
冒頭の八戸前沖さばブランド推進協議会の担当者も、「八戸は昔からサバの水揚げを行っており、加工業者も高い技術を持っている。必ずしも原産地にこだわらず、八戸に来ればおいしいサバが食べられるという点を発信していきたい」と話す。イベントにおける即売会の実施や、東京・大阪にあるPRショップなどとも連携し、ブランド維持に引き続き力を注ぐ構えだ。
サバ以外にもイカやサンマなど不漁にあえぐ魚種は少なくない。極端気象に伴う影響をつぶさに捉え、事業上のリスクをいかに抑えられるか。あらゆる企業に極端気象下での事業戦略再考を投げかけている。
(日本経済新聞 生田弦己)
[日経ビジネス電子版 2024年4月9日の記事を再構成]
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