(写真:向田 幸二)

ロボットや家電、自動車向けまで多種多様の電子機器に内蔵されているモーター。その市場は自動車や機械の電動化、人手不足に伴う自動化需要を背景に沸き立っている。世界の電気モーターの市場規模は2021年に1131億ドルだったが、28年までに1819億ドルに成長する見通しだ。

世界大手はニデック、スイスABB、独ボッシュ、香港ジョンソンエレクトリックなどが上位に名を連ねる。メーカーごとに得意領域は異なり、日本勢で産業機械・ロボット用では安川電機、デジタル機器向けの小型モーターではミネベアミツミ、マブチモーターなどが高いシェアを持つ。

特に近年、モーター業界で競争が過熱しているのが電気自動車(EV)の動力機構となる駆動用モーターだ。世界の車載モーターの需要は22年に31億3900万個だったが、30年には53億2400万個に膨らむ見通し。日米欧問わず完成車やティア1(1次下請けメーカー)はこぞって開発にしのぎを削っている。成長著しいモーター市場経済=モータノミクスを支えるサプライヤーとして、プレゼンスを発揮しているのが日の丸生産財メーカーだ。

世界13カ国、27地域から海外人材が福島に

タイ、ベトナム、インド、メキシコ、ブラジル──。多国籍な従業員が働く姿を見ると、一体ここがどこの国の工場か分からなくなってくる。

そこはモーター用巻き線機を手掛けるNITTOKUの福島事業所(福島市)。山間部のへき地にもかかわらず、この工場には13カ国27地域から外国人エンジニアが集まっている。彼らには重要なミッションがある。その成果が世界のモーターの出力や省電力化を左右すると言っても過言ではない。

なぜか。その答えを理解するためには、まずモーターの仕組みを知る必要がある。

モーターの中核部材は、電気を流すと磁石になる「電磁石」と、電気から磁力を得る「コア(鉄心)」、そこに銅線を巻いた「コイル」からなる。電気が流れるこの銅線の巻き方次第でモーターの出力や消費する電力が変わる。世界の電力消費の約半分はモーターといわれているだけあって、いかに少ない電気で高い出力を得るかに各社はしのぎを削っている。

この銅線を巻き付ける専用装置で世界最大手なのがNITTOKUだ。

「顧客は性能を出すため、とにかく巻けるだけ巻きたい。線の配列を工夫しながら何層ものコイルをいかに高密度に巻けるかが我々の腕の見せどころだ」。NITTOKUの角田公司常務執行役員は、こう言ってはばからない。

モーターは従来品と同等以上の性能を担保しながら小型化も求められている。放熱性も欠かせない。だが、放熱性を重視すると高密度に巻けず、小型化も難しくなってしまう。

しかもコアや磁石は「焼き物」。温度管理などプレス加工の仕方や焼き固め方で材料の特性にばらつきがあり、それに対応した巻き方をしなければ思った出力は出ない。

実際、巻くとなれば銅線の張力や巻き込む速度を最適に調節する必要がある。その機構は装置に何カ所もあり、それを連動させるとなれば制御システムは複雑この上ない。この制御システムこそ技術の肝だが、「絶えずアップデートし続けており、下位メーカーは簡単にまねできない」と角田氏は胸を張る。

目にも留まらぬ速さで銅線を巻き付ける装置の数々。寸分たがわず銅線を配列する独自の制御システムが競争力の源(写真:向田幸二)

NITTOKUはこの巻き線機を含めたモーターの組み付けラインの構築まで担っている。顧客の海外工場でその構築をつかさどるのが、冒頭の外国人エンジニアたちだ。彼らはNITTOKUが受注した設備を福島事業所で組み立て調整し、量産ノウハウを習得。母国となる海外に出荷した後は現地で据え付けや操業支援に汗をかく。

NITTOKU福島事業所では多国籍の外国人エンジニアが行き交い、最適な操業条件などを議論し合う(写真:向田幸二)

プロジェクトが終われば、再び福島に戻り次のライン構築に取り掛かる。こうした「海亀人材」の中には10年以上のエンジニアもいて、タイ人が「先生」となって指導したり、外国人同士が論議したりする光景も珍しくない。

量産に集中したいモーターメーカーにとって、ライン構築は面倒な作業だ。NITTOKUは代理人となることで技術力だけでなくサービス力でも重宝されている。

家電から産業ロボット用まで常時、月20以上のプロジェクトを抱える。近年、特に受注が増えているのがEVの駆動用モーター向けだ。こちらは巻くというより最大20種類の平角の銅線を何本も差し込んでコイルにするが、完成車メーカーなどから生産性向上を求める声が大きい。

NITTOKUは古河電気工業を呼び込んで、線の「溶接」で新技術を開発。溶接強度を高めながら溶接時間を短縮するなどして、生産性を従来比で10倍に高めた。巻き線から先の工程にも分け入った価値創造はとどまるところを知らない。

NITTOKU近藤進茂社長に聞く


顧客対応の幅を広げて成長を加速


 当社は産業機械、自動車、家電など様々な業界と長年付き合っており、モーターの設計や材料に対する考え方を熟知している。他社がいきなりやろうと思ってもそうしたナレッジ(知識)がないから簡単にはできない。技術は日進月歩なので次々と新しいモーターの商談がきても対応できないだろう。
1968年猪越金銭登録機入社後、77年日特エンジニアリング(現NITTOKU)に入社。85年常務取締役、98年から現職。(写真:向田幸二)
 モーターは磁場(磁界)の問題が性能に関わってくるため、銅線を巻く回数や巻きたい場所は製品ごとに違う。そこで相手と対話してベストな巻き方を提案できれば信頼される。他社は言われた通りに設備を造るだけでそれ以上の付加価値を生めない。
 当社はIMDというモーターの開発、試作をするグループ会社を持っている。そこには世界中のモーターメーカーだけでなく、家電や完成車などのメーカー、材料メーカーが集う。
 安定量産に適したモーターの設計や、生産コストを下げられる自動化設備などのアイデアを出し合う。あらゆる情報が当社にどんどん集まり、顧客が求める設備の開発やライン設計にも生かせる。
 後工程まで含めた顧客への対応力も成長に欠かせない。代表例が銅線(巻き線)の溶接。オープンイノベーションで古河電気工業などと組んで生産性の高い技術を確立した。
 さらに巻き線加工の技術を生かしリチウムイオン電池に使うフィルム材を巻き取る領域にも出ている。巻くのが銅線かフィルムかの違いで、安定的に張りながら制御プログラム通りに高効率に巻いていく原理は一緒だ。独自開発した巻き線のオペレーションシステムは競争力の源であり、事業領域を増やす打ち手でもある。(談)

(日本経済新聞 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2024年4月11日の記事を再構成]

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