モバイルSuicaのアプリ画面=東京都千代田区で2024年7月12日、和田憲二撮影

 4月に就任したJR東日本の喜勢陽一社長は毎日新聞のインタビューに応じ、一般ドライバーが自家用車で客を運ぶ「日本版ライドシェア」について、「何らかの関わりを持って地方の課題に向き合うことはありうる」と述べた。直接参入する可能性は低いとしながらも、交通系ICサービス「Suica(スイカ)」を進化させ、駅から観光地などへ向かう2次交通と切れ目なく接続できる機能の追加を検討していることを明らかにした。

 地方は「移動の足」不足が顕著で、観光地ではインバウンド(訪日外国人客)の増加によりタクシー不足が深刻化。4月に始まった日本版ライドシェアは運営主体をタクシー会社に限定しているが、政府はさらなる拡大を狙い、バスや鉄道などタクシー以外の運送事業者の参入を促す方針だ。

インタビューに応じるJR東日本の喜勢陽一社長=東京都渋谷区で2024年7月5日、宮本明登撮影

 喜勢氏は「我々がタクシー事業を直接やる選択肢はおそらくない」としつつ、「鉄道を1次交通としたとき、(タクシーなどの2次交通で)観光地を結ぶことは地方の交流人口を増やすための一番大きなポイントになる。特に我々の営業エリア内にある上信越や東北地方はその課題が大きい」と指摘した。自治体との協力については「地方が本気でどう取り組むのか。我々の成長基盤は、東京だけが元気ではダメだ。地域交通の問題は我々自身の課題でもある」と、前向きに検討していく構えを見せた。

 JR東日本は6月、スイカの利便性を向上させ、今後10年間に新機能を順次追加する計画を公表済み。喜勢氏は一例として「東京―新青森間を移動する際、東京駅の改札にスイカをタッチすれば、新青森駅に着いたときにはタクシーが予約され、シームレスに接続できる」との構想を示した。

 目的地までのルートや移動手段の検索、予約、決済を一括して行えるサービス「MaaS(マース)」の基盤としてスイカを位置づけるとともに、さまざまなデータと連携できるスイカを活用したサービスは「(予約に応じて運行する)オンデマンド交通として非常に有効だ」と強調した。

 ローカル線のあり方にも言及した。JR東日本は2022年、利用の少ないローカル線を対象に、区間ごとの収支を初めて公表した。対象の35路線66区間は全て赤字だったが、喜勢氏は「廃線を前提にしたものではなく、地域の皆さまと経営状態を共有し、一緒に考えるメッセージとして発信した」と理解を求めた。

 国鉄時代からの会社の成り立ちに触れ「赤字だから直ちに廃線にするとか撤退していくという経営ではない」としたうえで、「大量のお客さまを定時でお運びする鉄道の特性を発揮できない路線は、本当にサステナブルなのか。人口減少社会でこれまでのように経済が機能するという前提には立てない」と指摘。各地域に適した交通のあり方について、前提を置かずに議論していく考えを示した。

 1987年の国鉄民営化後に入社したJR採用世代として初の社長となった喜勢氏は、今年3月末で国鉄採用の社員のほとんどが定年退職したことを受け、「国鉄改革の最後の節目だった。本当の意味で、名実ともに民間会社になったと思う」と語った。新たな成長戦略については「経営の起点を『鉄道インフラ』から『人』に転換していく」とした。【佐久間一輝】

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