JR九州の古宮洋二社長は19日記者会見し、2025年4月に鉄道運賃を値上げすると発表したことについて、「全国平均を上回る人口減少や物価高騰などで厳しい経営状況が続いている」と説明した。消費税増税を除いて1996年以来29年ぶりの運賃改定となった背景には、収入と支出の両面での逆風がある。
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今回の運賃改定では、初乗りを170円から30円引き上げ、200円にする。主な区間では、博多―久留米間の運賃が14.5%増の870円に、小倉―門司港間は21.4%増の340円、佐賀―新鳥栖間は16.7%増の560円となる。
新幹線では、運賃と指定席特急料金の合計額が博多―鹿児島中央間で12.3%増の1万1950円となるほか、博多―熊本間は11.7%増の5840円となる。
こうした値上げに踏み切るのは、JR九州の鉄道部門の収支が2023年度、291億円の赤字となるなど経営が厳しいためだ。同社は値上げしなければ、25〜27年度の平均で赤字が年間366億円に膨らむと試算している。
これだけ赤字が膨らむ理由の一つは、鉄道の維持・運営費などの増加だ。23年度は1961億円で、前の年度比で4%増加した。24年度も前の年度比で5%増える見通し。電気代の高騰や賃上げなどによる経費の増加に加え、激甚化する自然災害も大きな痛手となっている。
管内では豪雨災害で鉄路が寸断されて23年8月にバス高速輸送システム(BRT)として復活した日田彦山線や、33年度までに鉄道での復旧を目指している肥薩線八代―人吉間など、被災路線が少なくない。長期の運休とならない場合でも、土砂崩れや倒木といった被害は毎年各地で発生している。
さらに収入面でも23年度の鉄道旅客運輸収入が新型コロナウイルス禍前の18年度(1514億円)の96%にとどまっている。古宮社長は「オンライン会議やテレワークの定着で輸送需要はコロナ前の水準に戻らない」とみている。
今回、JR九州が運賃値上げを決めるきっかけになったのは、運賃の基準を定める国土交通省の方針変更だ。鉄道運賃は、減価償却費や人件費といったコストに適正な利潤を上乗せした「総括原価」に基づいて決めている。
全国的な人口減少・高齢化に伴う乗客の減少や、コロナ禍による生活様式の変化などを受け、同省は4月に総括原価の算定方法を改正。減価償却費などの計算方式を見直したほか、耐震化のための設備投資や人材確保に向けた賃金改善にかかる費用を運賃に反映させやすくした。
こうしたなか、すでに松浦鉄道(長崎県佐世保市)が九州運輸局に運賃改定を申請するなど、各地の鉄道事業者が値上げに踏み切っている。
西日本鉄道も子会社の筑豊電気鉄道(福岡県中間市)が9月に初乗り運賃を10円値上げし220円にする予定。西鉄の林田浩一社長は19日の記者会見で主力の天神大牟田線などについて、「新たな算定方法に基づいたシミュレーションを重ねながら、いつ・どう運賃改定するのがいいか今後検討していく」と語った。
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