駿河湾を活用した海洋DX事業を説明する静岡市の難波市長(26日、静岡市)

日本一深い駿河湾を持つ静岡を産学官の連携により海洋デジタルトランスフォーメーション(DX)の一大拠点とする計画が動き出す。デジタル技術を駆使した海洋関連の課題解決へ専門人材の教育の場を整えるほか、新たな関連産業を生み出す共同事業体も組織する。事業費は5年間で20億円。地域振興や雇用創出にもつなげる。

事業名は「駿河湾・海洋DX先端拠点化計画」。静岡市と県の共同申請により内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」に採択された。交付額は5年間で約13億円。駿河湾を研究対象に今後10年をかけて産学官が人材育成や技術の社会実装、産業育成、雇用創出に取り組む。県市共同の計画が同交付金に選ばれたのは初めて。

海洋DXを担う専門人材の育成に向けた大学改革事業としては静岡理工科大学(袋井市)が2027年度に修士課程として「海洋DXコース」を新設する。1学年15人程度が、海洋DXの実現に必要なデータの作成から実習による課題解決までを一貫して習得できるプログラムを用意する。

静岡理工科大と静岡大学、静岡キャンパス(静岡市)に海洋学部を置く東海大学とが連携により新たな大学院も設ける。静岡市の難波喬司市長は国立私立の枠を超えた大学連携を促す「大学等連携推進法人」など様々な制度の活用が想定されるとした。

海洋に関する様々な課題をデータ分析により解決する「マリンインフォマティクス研究機構」も静岡理工科大と静岡大が共同で25年度に新設を予定する。情報や機械、生物、産業社会などを横断した研究連携体制を構築するほか、駿河湾の海洋データやシミュレーションモデルといった基盤システムの開発を進める。

難波市長は具体例として「サクラエビやしらすの不漁などの原因や対策を海流や水質といった様々なデータの活用で解き明かすことができるかもしれない」と語り、研究成果に期待を示した。

成果の事業化に向け、産学官の共同事業体「しずおか海洋DX研究開発・事業化推進コンソーシアム」も設置する。水産業のスマート化や養殖技術の開発、光技術を応用したセンサーなどによる海洋観測の技術や機器の開発、海草や藻などに二酸化炭素(CO2)を吸収させ脱炭素につなげるブルーカーボンなどを主な研究内容とする。

鈴与グループやNTTグループが海洋DXにつながる技術などの共同研究開発や事業化を支援する中核企業として参画する。県内外の海洋関連企業やスタートアップにも参画してもらうことで静岡への海洋産業の産業集積を進めたい狙いだ。

静岡県は19年に海洋技術の研究や海洋ビジネス振興を促す一般財団法人「マリンオープンイノベーション(MaOI)機構」(静岡市)を設立するなど、海洋関連プロジェクトを重視してきた。17〜18日に清水港(静岡市)近くで同機構の主催により海洋産業の国際会議「ブルーエコノミーエキスポ」が初開催された。

(大倉寛人)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。