日本人の死因1位であるがん。漠然と不安は感じるが検査は面倒だし、痛いのは嫌だ。さらに物価高の折、検査費用も心配だ――。そんな記者(38)が最近、尿検査だけでがんリスクを調べられるキットのエントリーモデルがあることを知った。価格は2万円弱で、精度も低くないという。ならばと重い腰を上げ、試してみた。
名古屋大学発スタートアップのCraif(クライフ、東京・文京)による新製品は「マイシグナル・ライト」。主力品の「マイシグナル・スキャン」は6万9300円となかなかのお値段だったが、新製品は1万9800円(19日からは2万4860円)と飲み会を数回我慢すれば捻出できるほどの金額になった。
でもやはりお値段なりの結果しか出ないのでは、と勘繰るのは記者の悪い癖か。クライフに電話し、広報担当の松本尚樹さんに違いを聞いてみた。「スキャンは、体の部位ごとに現在がんがあるかどうかについてのリスク判定をします。新たに投入したライトは全身の現在のがんリスクを網羅的に判定します」と教えてくれた。
つまり特に具体的な不調や不安があるわけではなく、がんのリスクが高いかどうかだけ知りたい場合、エントリーモデルから試してみてもよさそうだ。詳細に調べるのは「高リスク」と判定されてからでも遅くはないだろうと、申し込んでみた。
数日で自宅に小さめの段ボール箱が届いた。内容物は健康診断で使うような採尿キットと検査手順を書いた紙、そして保存用の保冷剤。着払いの伝票がついた返送用ポリ袋も同封されている。
まずはスマホでQRコードを読み込み、専用サイトで画面の指示に従って名前や生年月日、血液型などの基本情報を入力する。塩辛いものや野菜などを食べる頻度、喫煙歴、運動習慣、家族ががんにかかったことがあるかなど質問内容は多岐にわたった。大量の質問があったが、10分ほどですべて回答できた。
尿は朝イチで採取しなければならない。返送用の袋を使い、検査センターに郵送するのだが、注意が必要なのは尿を冷えた状態で保管しチルド便で送らなければならない点だ。ちなみに保冷剤は採取した尿を冷蔵庫に入れるのに抵抗がある人のためについている。
最も大変だったのはこのチルド便での送付だったかもしれない。手引書にはチルド便を取り扱う郵便局を検索する方法が書かれていたが、あいにく記者の自宅近くの郵便局では取り扱いがなかった。大雨が降っているが、尿を冷蔵庫に入れるのは抵抗がある。雨の中バスで行ける距離の郵便局まで移動し、なんとか郵送できた。
検査結果が届くまでに現在は1カ月程度かかる。一仕事終えた気持ちですっかり忘れて過ごしていたところ、郵便受けに「結果表在中」と書かれた封筒が届いていた。
もし高リスクだったらのんびり体験記事を書いているどころではないという思いが頭をよぎる。恐る恐る報告書を開くと、判定は3段階の評価でもっともリスクが低い「一般的な方と同程度のがんリスク」だった。
正直ほっとしたが、がんは加齢や遺伝子変異などが原因で進行し、初期は自覚症状がないことも多いそうだ。低リスクと判定された場合でも油断せず、定期的に検査するのが望ましいという。
マイシグナル・ライトはがん細胞から放出される代謝物を尿から測定し、全身のがんリスクをステージ1から検出する仕組みだ。
高リスクと判定された場合、次に何をすればいいかまで提案してくれるのが強みという。松本さんは「まずはマイシグナル・スキャンのような検査でどの種類のがんであるリスクが高いかを調べてもらいたい。追加検査設備があるマイシグナルの提携医療機関も提案しているので、受診を検討してほしい」と話す。
クライフは2018年に創業したスタートアップだ。三菱商事出身で祖父母をがんで亡くした経験を持つ小野瀬隆一最高経営責任者(CEO)が、名古屋大学の研究者だった安井隆雄氏と共同で立ち上げた。トヨタ自動車系のトヨタ紡織と豊田合成も出資している。マイシグナル・スキャンは厚生労働省の認可を目指している。
7月17日にはマイシグナルシリーズでサブスクリプション(定額課金)プランも始めた。3カ月に1回、がんにつながるDNAの損傷程度を検査するキットが届くタイプは月額7900円。定期的に検査しなければと思っていても、ついうっかり忘れてしまいそうな人には助かるシステムかもしれない。
「早く見つけられれば治る可能性が高まる」と松本さんは力を込める。日本人の2人に1人ががんになる時代。大切な家族や友人とより長く過ごすためにも、早期発見には大きな価値がある。
検査キットを一般販売する企業はまだそれほど多くないが、ほとんどは厚労省の承認を得ていない簡易検査だ。利用者がよく吟味し、見極めることも必要だ。
(岸本まりみ)
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