過去最高水準 広がる賃上げ
同じ今月4日、日銀が公表した地域経済報告=さくらレポートでも賃上げの記述が目立った。
「昨年度を上回る5%のベースアップを検討している(食料品)」
「固定費の増加を受けて昨年度はベアを見送ったが、採用力の低下を痛感し、今年度はベアを実施する方針に変更(小売り)」
「取引先が価格転嫁を受け入れたので、賃上げ原資を確保でき、昨年を上回るベアや賞与支給を実施する方針(輸送用機械)」
業種を超えた賃上げの広がりが見てとれる。
また、大企業に加えて中小企業でも賃上げに勢いが出ているようだ。
連合の集計では、組合員300人未満の企業でも賃上げ率は平均で4.69%となった。
比較可能な2013年以降で最も高くなっている。
中小企業 賃上げ実現のわけは
ことし賃上げを実施するという中小企業を訪ねた。
東京が本社で、茨城や千葉に工場を構える従業員160人の「流機エンジニアリング」。
工事現場などで発生する「ちり」を集める大型装置や送風機を製造している。
ことしの賃上げ率は平均5.7%を予定している。
賃上げが可能になっているのには理由がある。
1つが価格転嫁だ。
ケーブルや樹脂といった原材料は高騰しているが、値上がり分として取引価格に5%から15%の上乗せを行っている。
西村聡社長によると、価格転嫁に理解を示す取引先が増えてきているという。
もう1つが収益力の強化だ。
この会社では、これまでの技術を生かした新しい事業分野への挑戦も進めている。
ちりを集める装置で使う技術を応用し、排水などを処理するフィルターを開発。
すでに利益も生み出しているという。
社内に20人規模の新しい事業部を立ち上げ、さらなる新事業への挑戦も進める方針だ。
従業員たちも賃上げを歓迎していた。
従業員の声
「賃上げは大企業だけの話だと思っていましたが、やっと自分のことだと実感できます」
「生活するうえでの心配が減って安心して生活できています。仕事の活力にもなるし、すごく助かっています」
もちろん、なかなか賃上げに踏み切れないという声は聞かれるが、中小企業でも、賃上げに対する姿勢や取り巻く環境が変わりつつあることがうかがえた。
実質賃金 プラスに転じるか
こうした中、注目されるのが“実質賃金”の動向だ。
実質賃金は、物価上昇の影響で、2022年4月以降22か月間マイナスが続いている。
直近のことし1月の実質賃金は、速報値で前年同月を0.6%下回っている。
ただ、物価上昇率が鈍化してきていることから、マイナス幅は縮小してきている。
さらに新年度に入り、今回の春闘での高い水準の賃上げが給料に反映されてくる。
エコノミストの間では、ことしのうちに実質賃金がプラスに転じるのではないかという見方が出てきている。
中には、春闘の結果が想定以上だったとして、予想を前倒したという声も聞かれた。
実感ある賃上げは課題も…
ただ、懸念材料もある。
外国為替市場では、円安が進んでいる。
先月27日には、1ドル=151円97銭をつけ、1990年以来、およそ34年ぶりの円安ドル高水準となった。
円安が一段と進めば、輸入価格の上昇を通じて物価が上振れるリスクがある。
人手不足の進行も気がかりだ。
今回の春闘での賃上げは、“防衛的な賃上げ”の側面があるとして、持続性に対する慎重な見方も出ている。
中小企業から小規模企業、個人事業者へと賃上げが波及しているのかも不透明だ。
日銀の植田総裁は先月27日に開かれた参議院の予算委員会で「実質賃金の伸び率は次第にプラスになり、人々の生活実感も改善していくと考えている」と述べた。
植田総裁が語った世界は、本当に訪れるのだろうか。
そのカギを握る“実質賃金”の動向が当面の注目点だ。
注目予定
4月8日は、毎月勤労統計で2月の実質賃金の速報値が公表されます。
民間の予測では、まだマイナスが続くという予測が大半ですが、結果が注目されます。
また、10日には日銀の植田総裁が信託銀行の大会で挨拶をする予定です。
今後の利上げの時期などについて示唆はあるのか、関心が高まっています。
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