脱炭素に向けた運輸燃料として合成燃料が注目されている。日本が2050年までに二酸化炭素(CO2)の実質排出ゼロを達成するには、排出量の2割を占める運輸部門の取り組みが重要だ。政府は石油業界などと連携し、導入準備を着実に進める必要がある。
火力発電所などから回収したCO2と、再生可能エネルギーで水を電気分解した水素を掛け合わせてつくる。燃やすとCO2が出るが、製造過程で同量を回収するため、排出量は実質ゼロとなる。
運搬・貯蔵には既存の石油製品のインフラが使える。日本は22年に官民協議会を立ち上げ、30年代前半の商用化を目指している。
普及は再生航空燃料(SAF)が義務付けられる航空機や船舶向けから始まる見込みだ。長距離航行はエネルギー密度が高い液体燃料が最適だからだ。バイオ系燃料が先行するが、原料の植物や廃食油の大量調達には制約がある。
運輸部門の排出の8割を占める自動車の場合、脱炭素の本命は電動化とみられていた。しかし23年3月、電気自動車(EV)導入の先導役だった欧州連合(EU)が35年以降のエンジン車販売禁止を撤回し、合成燃料の容認に転換したことで状況が変わった。
コストや航続距離、寒冷地での走行の難しさに、中国製の車両・蓄電池による市場席巻への警戒が加わり、EV販売は失速気味だ。次善の策としてハイブリッド車で脱炭素を達成するには、合成燃料との組み合わせが必要だ。
日本では石油大手のENEOSホールディングスや出光興産が生産や海外調達を検討する。政府もエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて米国の新興製造企業へ出資を決めた。
課題のコストは、政府の試算で1リットルあたり300〜700円と割高だ。量産効果や技術革新を促していくうえで、当初は補助金などの公的支援も必要となろう。ハイブリッド車での日本の先行優位を生かすためにも、合成燃料の基盤整備を怠るわけにはいかない。
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