ホンダは2023年末に折りたたみ式電動スクーターを発売した
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

知っておくべきこと:

・マイクロモビリティーは栄枯盛衰の激しい市場だが、消費者の需要は衰えておらず、各社は稼げるビジネスモデルを見いだそうとしている。

・バッテリーのメンテナンスと充電はこれまで様々なビジネスモデルの共通のペインポイント(コストをかけても解決したい課題)だったが、新たな解決策が登場しつつある。

・配送拠点から各世帯・事業所までの「ラストワンマイル」物流とサステナビリティー(持続可能性)目標の達成を支えるため、BtoB(法人向け)企業が市場に参入している。

マイクロモビリティーは容易なビジネスではない。米電動キックボードの草分けで、一時はベンチャーキャピタル(VC)の寵児(ちょうじ)だった米バード(Bird)の苦境を見れば明らかだ。需要ではなく、稼げるかが問題なのだ。

米ライドシェア大手リフトのマイクロモビリティー事業の苦戦を例に挙げよう。ニューヨークで展開している人気の自転車シェアシステム「シティバイク」により、電動自転車の利用回数は同社全体の3分の2を占めるまでに成長した。だが、保険やバッテリー交換、車両など運営費が高騰し、利益率が低いため、リフトはこの事業の売却を検討している。

もっとも、需要があれば市場はある。今や大手企業はマイクロモビリティーを有用と見なし、自動車メーカーや小売りなどのキープレーヤーは市場を後押ししようとしている。こうした企業の関心を反映し、2024年の決算説明会ではマイクロモビリティーに関する用語への言及回数が過去最多に迫っている。

以下では、物流向けの需要からEVの台頭まで、マイクロモビリティー復活の原動力となっているトレンドについて取り上げる。

企業、マイクロモビリティーに再び関心(決算説明会での「マイクロモビリティー」または「電動キックボード」への言及回数) 出所:CBインサイツ

ポイント:

物流向けが有望分野として台頭している。この分野ではアーリーステージ(初期)企業による資金調達件数が多いことがその証しだ。

・アジアの自動車メーカーはEV事業と並行してマイクロモビリティー事業を推進するチャンスに気づいている。

・マイクロモビリティーの製造は中国勢の牙城だが、新たな法律が米国のマイクロモビリティー向けバッテリーメーカーにチャンスをもたらしている

物流向け、有望分野として台頭

運送会社や小売りは電動キックボードや電動自転車の活用により、ラストワンマイル輸送の効率化と脱炭素化を推進できる。こうした法人向けマイクロモビリティーは好調だ。消費者向けレンタルよりも需要が安定している上、公共エリアで展開するために地元当局の承認を得ることに比べれば企業の所有地にインフラを築くのは容易だからだ。

ラストワンマイル輸送向けマイクロモビリティーは勢いを増している。

カーゴバイクをレンタルするモビーバイクス(Moby Bikes、アイルランド)や、マイクロモビリティー車両のレンタル用ソフトウエアを手掛けるジョイライド(Joyride、カナダ)などのアーリーステージ企業は最近、法人向けサービスのために資金を調達した。

一方、物流大手の米アマゾン・ドット・コムは英国やドイツなどの欧州市場に数億ドルを投じ、ラストワンマイル輸送用の電動自転車を備えたマイクロモビリティー拠点を設けている。

こうした拠点は現在、欧州の40以上の都市で稼働している。これはアマゾンが掲げる2040年までに二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする目標の一環だ。

アマゾン、欧州のマイクロモビリティー拠点に数億ドルを投資

アジアの自動車メーカー、EV事業と並行してマイクロモビリティーを推進するチャンスを認識

EVを手掛ける自動車メーカーは、バッテリー駆動車に関する専門知識をマイクロモビリティーにも適用しようとしている。

特にアジアの自動車メーカーがこの分野で活発に動いており、現在は様々なマイクロモビリティーのアプローチで特許を蓄積している。

アジアの自動車メーカー、マイクロモビリティーに注力

例えば、韓国の現代自動車と傘下の起亜は最近、1人乗りの超小型車や、トランクのようなスペースが付いた立ち乗りスクーターなど、個人用マイクロモビリティーの新たなモデルに関する特許を共同で取得した。

ホンダは都市部の消費者に顧客基盤を拡大するため、23年末に折りたたみ式電動スクーター「モトコンパクト」を発売した。折りたたむと四角いキャリーケースになり、階段の上り下りや公共交通機関への持ち込みが容易になる。

もっとも、自動車メーカーにとっては充電インフラがなお壁になるだろう。そこで、充電やバッテリー交換を手軽にしようとしている自動車メーカーもある。

日産自動車は最近、英国で電動マイクロモビリティー車を販売するため、バッテリー交換ステーションを強みとする電動スクーターメーカーのサイレンス(スペイン)と提携した。

日産、バッテリー交換式のマイクロモビリティー車で提携

一方、ホンダはこのほど、EVバッテリーから電動キックボードを直接充電できるようにしてEV所有者にインセンティブを与えるシステムで特許を取得した。

ホンダ、EVバッテリーから電動キックボードを直接充電できるシステムで特許を取得

新たな法律、米バッテリーメーカーに商機

米国のマイクロモビリティー市場は製造よりもシェアリング向けプラットフォームに力を入れてきた。

もっとも、電動自転車の販売台数の増加は、自転車を所有したいと考える消費者の方が多いことを示している。このニーズを満たしているのは海外メーカーや海外生産の米ブランドで、米国の電動自転車の9割が中国製とみられる。

だが今では中国製の電動自転車の部品に関税がかかるようになったため、ラッドパワーバイクス(Rad Power Bikes)など米大手は値上げを余儀なくされている。

値上げによって消費者の電動自転車への需要は落ち込む可能性が高いが、この規制は米国に拠点を置くメーカーが生産を増やし、この市場で成長するチャンスになる。

例えば、米カリフォルニア州でバッテリーを製造する米ナノテック・エナジー(Nanotech Energy)は、米ソテリア・バッテリー・イノベーション・グループ(Soteria Battery Innovation Group)及びボルタプレックス・エナジー(Voltaplex Energy、香港)と提携し、米国で電動自転車用リチウムイオン電池を製造している。

米バッテリーメーカー、安全性の高い電動自転車用バッテリーの製造で提携

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