なぜETFの買い入れ増えた?時価74兆円
日銀がこれまでに買い入れたETFの総額は、このところの株高もあって大きく膨らんだ。
民間のシンクタンクによると、公的年金の積立金を運用するGPIF=年金積立金管理運用独立行政法人を超えて、日銀が間接的に日本株の“最大の株主”になっているという。
ことし3月に大規模な金融緩和が転換されて、新たなETFの買い入れは行われなくなった。
市場などからは「株価を下支えした」と政策を評価する声もある一方で、中央銀行が下落リスクもある大量の株を間接的に保有するという異例な状態をどう解消するかが課題となっている。
そもそもETFの買い入れが決まったのは、2010年10月の金融政策決定会合だ。
その頃の日本経済はリーマンショックからの回復途上で、円高が進み株価も低迷していたため、日銀は世界でも異例の政策の導入を決めた。
短期金利の操作など伝統的な金融政策の効果が少なくなっていた中、導入に踏み切ったのだ。
ただ、当時の白川総裁は、ETFなどリスク性資産の買い入れが恒常化する危険性を指摘していた。
買い入れ額は4500億円程度に制限。
その後、買い入れ額の上限は増えたが、あくまでも時限的な措置として、過度にリスクを恐れていた投資家や企業を後押しするのがねらいだった。
しかし、大規模な金融緩和策を掲げる黒田総裁が就任すると状況は一変。
ETFの購入は恒常的な政策に変わっていった。
“黒田バズーカ”の1つに位置づけられ購入の上限の拡大が続いた。
2013年に上限は年間1兆円と倍以上に引き上げられ、翌年には3兆円、2016年には6兆円、そして2020年には、新型コロナの影響を受けて年間12兆円にまで広がった。
結局、ETFはことし3月末の時点の簿価で37兆円、時価で74兆円まで積み上がったが、危惧されていた買い入れの恒常化で市場をゆがめ、リスク資産を膨らませることにつながったという批判は多い。
活用策【1】 希望する国民に販売する
一方、足もとではETFは大幅な含み益の状態で、74兆円にものぼる資産の活用が注目されている。
希望する国民に割安で販売するという案もある。
民間のシンクタンクによると、過去に香港の金融当局が行った「出口戦略」の事例があるという。
1998年、アジア通貨危機をきっかけに投機筋に大量の株や通貨を売られたことに対抗して、香港の金融当局は10営業日で当時のレートでおよそ2兆円余りの株を購入する市場介入を行った。
香港の金融当局は、この政策の出口戦略として、まずは第三者機関を設立して中立的な立場で株の管理や情報開示を行った。
そして翌年にはETFの購入を希望する国民や機関投資家に割安で販売し、長期保有を促した。
株価急落など市場の大きな混乱もなく、ETFを売却できたこの事例は、日本でも参考になる可能性があると専門家は指摘している。
大和総研 長内智 主任研究員
「第三者機関をつくるなど透明性を高める工夫は日本でも重要だ。香港では、多くの国民にETFが行き渡ることで貯蓄から投資へのシフトを促すメリットもあった」
活用策【2】 政府が買い取って財源に
一方、政界では巨額の“埋蔵金”として大きな関心が寄せられている。
今月、立憲民主党が示したのが子育て支援の財源にするという案だ。
具体的には、日銀が保有するETFを政府が買い取り、一般会計とは別の特別会計として管理する。
そして、ETFから得られる分配金を子育て支援に使うというものだ。
今の国会に提出した法律の修正案は否決されたが、自民党の議員からも、課題となっている防衛財源とする案や、年々膨張する社会保障費に使う案などさまざまな声が出ている。
ただ、政府が買い取る案は、莫大な額となる買い取るための予算がそもそも確保できるかなど課題も指摘されている。
活用策【3】 市場で売却
もちろん、日銀がすぐにETFを市場で売却することもできる。
大きな含み益を抱えた今、株が売却できれば、その売却益が国庫ひいては国民に還元されることになる。
ただし、一気に大量の株を売却すれば株価が大きく下がってしまい、市場を混乱させるリスクがある。
実は日銀は、過去に金融機関から買った株を今でも年間3000億円程度売却している。
この程度の金額なら市場に悪影響を及ぼさないとみられるが、74兆円分すべてを売却するのに240年余りの途方もない時間がかかる計算となり、現実的ではないという指摘もある。
日銀はいつ動くか
いずれの案も一長一短がある中、日銀はいつ動くのか。
ある日銀幹部は「ETFの活用についてさまざまな提言をいただくが、政策変更をしたばかり。日銀としては処分を急ぐ必要は全くない」と述べていた。
植田総裁も国会や会見などで、時間をかけて慎重にETFの取り扱いを決めていく方針を重ねて示している。
日銀のETF買い入れをテーマに調査を行う専門家は、国民的な議論が重要だと指摘している。
ニッセイ基礎研究所 井出真吾 主席研究員
「政府と日銀が共同で進めた金融緩和策で生まれた資産は国民の資産と言える。多くの国民の利益につながる教育や研究開発、子育て支援などに活用されるよう議論を行うべきだ」
株式市場が高騰に沸く今は“埋蔵金”となっているETFだが、今後相場が悪化すれば含み損で一転して“負の遺産”となるリスクもある。
どのように活用すれば将来につながるのか、幅広い議論が求められている。
注目予定
日本は大型連休が始まりますが、商社などで本決算の発表が予定されているほか、日銀がマイナス金利の解除を決めた3月の金融政策決定会合の議事要旨が公表されます。
注目は、2日のアメリカの中央銀行にあたるFRBの会合の結果です。
アメリカで根強いインフレが続く中、利下げ時期について言及があるのかが焦点です。
また、3日のアメリカの雇用統計の結果は、利下げの判断にも影響を与える可能性があり注目が集まっています。
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