現実世界をデジタル空間に再現した「デジタルツイン」上で衝突事故を予測し、拡張現実(AR)グラスに通知して歩行者に危険回避を促す――。東京科学大(旧東京工業大)と楽天モバイルの共同チームが、そんなスパイ映画のような危険回避システムを開発した。子供や高齢者でも安心して外出できるなど、高度なデジタル技術を活用した暮らしにつながると期待されている。
2030年に導入が見込まれる次世代通信規格「Beyond 5G(B5G)」の運用を見据えた研究開発の一環。B5Gは、現行の5Gをはるかに上回る超高速、超低消費電力による大容量データの送信が可能とされる。産業や社会生活の基盤として、さまざまな活用が見込まれる中、政府は国際的な開発競争力の強化を急いでいる。
国立研究開発法人「情報通信研究機構」(NICT)は、B5Gの研究開発促進事業として、民間企業や大学からB5Gの実現に必要な要素技術の研究開発を募った。これを受託した共同チームは、東京都目黒区の東京科学大大岡山キャンパス内にB5Gの環境をつくり、ARグラスをかけた歩行者に危険を知らせる仕組みを構築した。
通路に設置したカメラやセンサーが歩行者や自転車などの物体を検知。現実空間で収集したデータを基に高度なシミュレーションができる「デジタルツイン」上で、人工知能(AI)が物体の数秒後までの経路を予測し、衝突の危険があれば衝突予測位置などの情報をARグラスに通知する。アラームや、グラス越しに見る現実風景に注意を促すAR画像を表示することで歩行者に危険を知らせる。
こうしたシステムは現在、工場内など限られた空間で導入が始まっているが、公共性の高い環境での活用は実現していないという。共同チームの東京科学大・阪口啓教授は「システムの活用により、街で発生する危険性を削減できる」と話している。【嶋田夕子】
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