東北電力の女川原発2号機(宮城県)が29日、再稼働した。東京電力福島第1原発事故以降、原発の停止が続く東日本で初の再稼働となった。東日本では西日本に比べて電力供給面の不安定さや電気料金の高さが指摘されてきたほか、東電の柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働も大きな焦点だ。女川原発再稼働は、これらの解決につながるのか。
「東日本の原子力発電所としても国内のBWR(沸騰水型軽水炉)としても震災後初めての起動であり、大きな節目となる」
武藤容治経済産業相は29日の閣議後記者会見で女川原発再稼働に期待を示し、「今後、電力需要の増加が見込まれる中で、東日本における電力供給構造の脆弱(ぜいじゃく)性や電気料金の東西格差などの観点から、原発の再稼働は極めて重要である」と意義を強調した。
「電気料金の東西格差」とは、既に原発12基が再稼働している西日本に比べ、燃料費のかさむ火力発電への依存度が高い東日本では電気料金水準が相対的に高くなっている現状をいう。例えば、10月分の標準家庭(月の電力使用量260キロワット時)の電気料金は、原発7基が再稼働した関西電力で7014円。これに対し、東北電は8186円と2割近く高い。
では女川原発が再稼働することで値下げにつながるかというと、そう単純ではない。東北電は2023年6月、多くの家庭が契約し国の認可が必要な規制料金を平均25%値上げしたが、その際に既に再稼働を織り込んでいるためだ。東北電は今回の再稼働による一般家庭の負担減を月約150円と算定している。
東北電の収支への影響はどうか。同社の試算によれば、電力供給を主に担ってきた火力発電の稼働が減ることで、24年度に燃料費を約260億円削減できる。ただ、これまでの安全対策工事にかかった費用約5700億円の減価償却も始まるため、24年度の収支改善効果は差し引き130億円にとどまるという。
東北電は女川2号機のほか、女川3号機と東通原発(青森県)の計2基を保有している。いずれも原子力規制委員会の審査を通過しておらず、再稼働の時期は未定だ。この2基が稼働すれば燃料費は抑制できるが、再稼働には規制基準に応じた安全対策工事が必要で、工費は上振れする可能性がある。仮に再稼働が進んだ場合も電気料金や経営への影響は見通せないとして試算は出していない。
一方、女川原発は西日本で再稼働が進む加圧水型軽水炉(PWR)とは違い、福島第1原発と同じBWRだ。この炉の再稼働も原発事故以降、初めてとなる。
BWRの再稼働は、12月に中国電力の島根原発2号機(松江市)が続く予定だ。その後は原発事故を起こした東電の原発再稼働が実現するかどうかに注目が集まる。柏崎刈羽原発は規制委の審査を通過しているが、女川や島根とは異なり地元の同意を得ておらず、再稼働時期は未定だ。
政府は、女川原発の再稼働が「脆弱」とされる東日本の電力供給の安定につながると期待する。実際、電力広域的運営推進機関(広域機関)が示している今冬の電力需給の見通しによると、東日本全体の最大需要は7010万キロワット。女川原発2号機の供給力は82・5万キロワットあり、再稼働することで供給力は1%超底上げされる計算だ。政府は柏崎刈羽原発についても、東日本にある原発として「再稼働が極めて重要」との立場を示している。【高田奈実、町野幸】
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