貿易政策・関税は
エネルギー・環境政策は
金融市場の動向は
「USスチール」買収計画に影響も
ただ、トランプ氏は電気自動車メーカー、テスラのCEOを務める実業家のイーロン・マスク氏との距離を縮めていて、9月には選挙で勝利した場合、政府の委員会のトップにマスク氏を起用することを明らかにしました。マスク氏もトランプ氏への支持を表明していて2人の関係性がEV政策にどう影響するかも注目されます。
一方、バイデン政権ではEVの優遇政策を受ける条件として、北米地域で電池の部材の製造や組み立てなどを行うよう自動車メーカーに求めていたことから日本メーカーの間でも現地でEVへの大規模投資の動きが加速してきました。それだけに大統領選挙の結果を受けて、EVの優遇策がどうなるかを注視しています。また、トランプ氏は生産拠点の国内回帰を重視し、外国から輸入した製品に一律に関税をかける方針を示しています。
特に自動車については、ことし7月の演説の際に中国メーカーがメキシコに自動車工場を建設していると指摘した上で、生産拠点をアメリカ国内に移さなければ100%から200%の関税を課して、アメリカでは販売できないようにすると発言したこともあります。メキシコには、アメリカへのアクセスの良さや生産コストの低さといったメリットから日本の自動車メーカーが数多く進出していて、アメリカへの輸出拠点にしています。仮にこうした政策が実現すれば、日本メーカーも戦略の見直しを余儀なくされるだけに神経をとがらせています。
さらにアメリカ大統領選挙の結果は金融市場の動向や日銀の金融政策にも影響するのではないかという見方が出ています。トランプ前大統領は法人税率の引き下げや所得税の最高税率の引き下げといった減税策について期限を撤廃して恒久的な制度とするほか、日本を含む外国から輸入される製品に原則10%から20%の関税をかける方針です。
一方、民主党のハリス副大統領はインフレ対策に取り組む姿勢を打ち出すとともに、初めて住宅を購入する人に頭金として最大2万5000ドル、日本円にしておよそ360万円を支給することを明らかにしています。市場関係者の間からは次のような指摘が多くなっています。
「トランプ前大統領が新たな大統領に就任した場合、減税による景気の押し上げや関税の上乗せによって輸入品の価格が上がることで物価が再び上昇する可能性がある。一方、民主党のハリス副大統領が就任した場合はこれまでの政権運営をおおむね継続するとみられるが、中間層への支援が物価上昇につながる可能性もある」
アメリカでは記録的な物価上昇が落ち着き、FRB=連邦準備制度理事会も4年半ぶりに利下げに踏み切りましたが、金融市場では「新大統領の経済政策で物価が再び上昇したり高止まりしたりした場合、FRBは今後利下げを進めにくくなり、外国為替市場では金利の高いドルが買われて、円安ドル高が進むのではないか」という見方が出ています。円相場は日本時間の4日午後5時時点で1ドル=152円台ですが、さらに円安が進むと日本にとっては輸出企業の業績を上向かせる一方、原材料の輸入価格が上昇し、物価が一段と押し上げられることが予想されます。一方、新しい大統領が保護主義的な動きを強めてアメリカからの輸出に有利なドル安を志向した場合は外国為替市場で円高方向に動きやすくなるという見方もあり、金融市場は新しい大統領の今後の発言や政策の実現可能性などに神経をとがらせる展開になりそうです。
新しい大統領の政策や外国為替市場の動きは日銀の金融政策にも影響しそうです。日銀は今後、経済・物価の情勢を見ながら利上げを検討する姿勢ですが、例えば新しい大統領の政策によってアメリカの景気が予想以上に過熱し、円安ドル高が急速に進む状況となった場合、国内の物価上昇リスクに対応するため早期の利上げの判断を迫られる可能性もあります。日銀の植田総裁は先週の金融政策決定会合のあとの会見で、「新しい大統領が打ち出してくる政策次第では新たなリスクが出てくるということは申し上げるまでもない。そこはまた新たなリスクとして点検していきたい」と述べています。
また、大統領選挙の結果は、日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画にも影響を及ぼす要因として注目されています。
この計画に対しては、鉄鋼業界の労働組合、USW=全米鉄鋼労働組合が一貫して反対しています。選挙戦の激戦州として知られるペンシルベニア州にはUSスチールの本社やUSWの本部があり、労働者層の支持を獲得したいハリス氏、トランプ氏ともこれまで買収計画には厳しい姿勢を示してきました。ことし1月、トランプ氏は「即座に阻止する」と述べて大統領に再び就任した場合には買収を認めない考えを示し、ハリス氏もことし9月、現地で労働組合の関係者を前にUSスチールについて、「アメリカ国内で所有され、運営される企業であり続けるべきだ」と述べていました。こうした中、日本製鉄は買収の実現に向けて、審査を進めるアメリカ政府の委員会に計画を再申請していて、委員会の判断が先延ばしになっていました。ハリス氏、トランプ氏とも買収計画には厳しい姿勢を示してきただけにいずれの候補が勝利しても先行きは不透明で、新たな大統領のもとでの委員会の判断の行方に注目が集まっています。
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