トランプトレードの主役
かつてないほどの活況だそうです。
トランプ氏が大統領選に勝利する前後で最もビビッドに反応している金融商品の一つが、暗号資産の一つ「ビットコイン」です。
大統領選の開票直前から価格の上昇傾向は始まっていました。
国内大手の暗号資産交換業者「ビットフライヤー」の取引所では円建ての価格が10月中旬に1000万円台に回復し、そのあと上昇と下落を繰り返していましたが11月5日以降は大幅な上昇が続き、14日にはあっという間に1400万円台に到達しました。
この業者には連日問い合わせが寄せられ、口座開設のための本人確認などを行うカスタマーサポートでは「新たに取引を始めたい」とか「しばらく取引をしていなかったが再開したい」などといった問い合わせが増加。
大統領選の開票前の平時の1日平均と比べて4倍から5倍の問い合わせが来ているといいます。
今後はオペレーターの人数を10数人増やす予定だということです。
ビットコインなどの暗号資産はほかの金融商品と比べて乱高下が大きいと言われ、利益を得る可能性もあれば、大きな損失を抱えることもあります。
投機的な要素もありますが、どうしてここまで“上げ”で反応しているのか。
それはトランプ氏が選挙戦で「アメリカをビットコインの超大国にする」などと発言し、暗号資産に関する規制を緩和する方針を示したことがあるからです。
日本での取り扱いはありませんが、アメリカではビットコインや同じ暗号資産のイーサリアムを組み入れたETF=上場投資信託も価格が軒並み上昇。
株高、ドル高だけではないトランプトレードの代表格となっています。
荒木雄介本部長
「取り引きは活発になっています。まだ盛り上がりが続いている感じで、われわれの人手も足りていない状況です。共和党やトランプ氏が暗号資産業界に対して肯定的な意見を出していたので、トランプ氏の勝利自体はプラスに働くであろうと予想していましたが、まさかここまで影響があるとは思いませんでした」
前回は“ショック”から始まる
8年前、トランプ氏が初めて勝利したときはどうだったでしょうか。
「Make America Great Again」とアメリカ第一主義を掲げ、関税の大幅な引き上げやTPP=環太平洋パートナーシップ協定からの離脱を訴えていたトランプ氏。
事前には劣勢という見方がありましたが、開票が進むにつれトランプ氏の優勢が伝わり始めると世界経済の先行きへの不透明感から日経平均株価は一時1000円を超える下落に。
円相場もドルが売られて円高が急速に進み、財務省、金融庁、日銀が緊急の会合を開き「トランプショック」と呼ばれました。
ただ、その後は共和党が上院、下院ともに多数派となる「トリプルレッド」となり、大胆な財政出動でアメリカの景気がよくなるという期待感が広がりました。
その期待感は海を越え、日経平均株価も上昇傾向に転じ、その年の12月中下旬にかけて金融やエネルギー関連の銘柄が値上がりしました。
アメリカ、日本ともに株価が上昇する「トランプラリー」でした。
今回も株価は急上昇
さて、今回の大統領選挙のあとを見てみると、少なくともニューヨーク市場ではトランプ氏の掲げる政策への期待が続いていると言えそうです。
ダウ平均株価は11日に初めて終値が4万4000ドル台をつけたほか、ナスダックやS&P500も最高値の更新が相次ぎました。
業種別を見ても大規模な減税策や規制緩和、石油・天然ガスの増産を目指すトランプ氏の政策を期待して、S&P500の業種別指数は投票が行われた5日時点より
▽銀行などの金融関連株が6%余り
▽石油などのエネルギー関連株が4%余り上昇しています。
政府新組織のトップ起用が発表された実業家のイーロン・マスク氏が率いるEVメーカーのテスラも株価が一時急上昇しました。
さらに外国為替市場では円も含めてさまざまな通貨に対してドルが強い状況(円相場ではドル高円安)が続いています。
一方、東京株式市場ではトランプ氏の勝利が確実になった6日こそ日経平均株価が1000円余り上昇しましたが、その後は決算発表が相次いでいることもあって一進一退となり、15日時点では大統領選直後の上昇分は半分以上が帳消しとなっています。
「東京のトランプトレードは一巡したかもしれない」という指摘が出る一方、アメリカを追いかけるように、金融や北米事業を拡大している機械メーカー、防衛関連企業などに投資家の注目が集まるという見方もあるようです。
市川雅浩チーフマーケットストラテジスト
「前回同様にトランプ氏への期待は大きく、株高、長期金利上昇、ドル高・円安の動きがみられている。トランプ氏の景気刺激策への期待があるためだ。前回のトランプ政権時は米中対立によって株安要因になることもあったので、今後は要注意だ」
意外なトランプトレード
こうした中、専門家が注目しているトランプトレードが穀物の“小麦”です。
国際的な指標となるシカゴ商品取引所の小麦の先物価格は大統領選挙の開票が始まった5日と比べると7%余り下落しています(15日時点)。
専門家が小麦価格に注目するのには訳があります。
ロシアによるウクライナ侵攻です。
ロシア、ウクライナともに世界有数の小麦の産出国です。
ロシアは各国からの経済制裁、ウクライナはロシアから攻撃によってそれまでの経済活動ができなくなったことなどから供給不安が広がり、小麦の先物価格は一時急騰しました。
その後は両国からの輸出も再開し、先物価格はひところと比べると比較的落ち着いていますが、ウクライナの小麦生産量は侵攻を受ける前の水準には回復していません。
こうした中、「戦争を終わらせる」と強気の発言をしていたトランプ氏がロシアのプーチン大統領と電話で会談したとアメリカのメディアが伝えると、投資家の間で「ウクライナからの小麦供給は安定化するかもしれない」という見方が広がり、価格が下落したというのです。
小麦の先物価格は私たちの身の回りの食料品価格に間接的とはいえ影響があるだけに、トランプ氏がウクライナ情勢にどう対応していくのかや小麦のトランプトレードの先行きは気になります。
吉田哲コモディティアナリスト
「小麦の先物価格は大きく下落した訳ではないが、他の穀物とは違う動きをしているので、小麦特有の理由=アメリカ大統領選挙が価格変動の背景にあるのだと分析できる。ただ、選挙の結果が出たとはいえ、実際に大統領に就任するのは来年の1月となるので、本格的に動くのはまだ先になるのではないか。穀物は食料価格への影響も大きく、どう変動するのか注目度は高い」
これからも続く
前回の大統領時代にいくつものサプライズを放ってきたトランプ氏。
そうした記憶が投資家をトランプトレードに突き動かしているのかもしれません。
とはいえ選挙前に掲げていた政策は本当に実現するのか、どこまで実現するのか。
就任前からマーケットは見極めようとしています。
まだまだトランプ氏の一挙手一投足に目が離せないという意味でトランプトレードはしばらく続きそうです。
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