埼玉県志木市のバス会社が自社グループでコメを育て、来秋の収穫時に全社員約1300人に5キロずつ無償で支給する計画を進めている。コメ不足や価格高騰が続く「令和の米騒動」を背景にした新たな福利厚生施策で、3年後には全員の年間コメ消費に相当する量を配ることを目標に掲げている。
会社は高速バス「VIPライナー」の運行や旅行業を手がける「平成エンタープライズ」(田倉貴弥社長)。
グループの農業法人「ベリーベリーベリー」(加須市)のイチゴ農園近くに約2ヘクタールの土地を取得した。2025年春に田植えをし、秋に約8トンを収穫しグループ会社を含めた全社員に配る。品種は県育成の「彩のかがやき」で、自社運営のレストランでの提供も予定している。
今後も取得する土地を増やし、3年後には約80トンの収穫を目指す方針。日本の1人当たりの年間コメ消費量は51・1キロ(23年度、農林水産省調べ)で、同社ではこれを十分にまかなえる60キロを全社員に配る計画だ。
同社が農業を始めたのは、新型コロナ感染拡大期間中に田倉社長が「排ガスを出すバス事業を大きくするより、地球に優しい事業を展開してもよいのでは」と考えたのがきっかけ。バスツアーで特に人気の高いイチゴ狩りをヒントに、21年7月に「ベリーベリーベリー」を設立、22年12月にはイチゴ農園を開いた。
イチゴはツアー客に提供したり自社運営の宿泊施設や飲食店のメニューに登場したりするだけではなく、既に福利厚生に活用している。社員1人あたり3パックの支給から始め、現在は社員や家族をイチゴ狩りに招待するなどしている。広報担当者によると、顧客や社員からおいしいと好評だという。
コメ栽培は今回の価格高騰の前から検討を始めた。加須にはコメの耕作地が多いが、農家の高齢化が深刻。社員の生活を豊かにすると同時に、地域の課題を解決したいという思いも背景にあった。
同社が土地を取得する過程で「もう辞めるので田んぼを引き取ってほしい」という農家も。現在も土地取得は順調といい、「予想以上に農業を辞めたい人が多いことがわかった」(広報担当者)という。
農業と共存する会社にしたいという思いもある。田倉社長は「食糧自給率の改善に少しでも貢献したい。自ら作り消費することで、社員に農作物を育てる苦労を知ってもらえれば」と話している。【増田博樹】
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