TikTokの運営会社は「禁止法」は合衆国憲法に抵触すると訴えた=ロイター

米国で中国発の動画アプリ「TikTok(ティックトック)」の利用を規制する法律の施行が近づいてきた。国家の企業活動への過剰な介入は控えるべきだが、地政学的な緊張が高まるなか、安全保障上の脅威を排除する視点は欠かせない。日本でもリスクを理解し、対策を講じる必要がある。

米連邦控訴裁判所は6日、中国資本からの分離か、米国内でのサービスを停止するか、二者択一を迫る新たな法律が合憲と判断した。TikTokの運営会社による「法律は表現の自由を保障した憲法に抵触する」との訴えを退け、新法は国民の権利を守るものと結論づけた。

トランプ米次期大統領が反対しているため先行きに不透明さが残るものの、法律は2025年1月19日に施行される可能性が高まった。実現すれば半導体などの製品に加え、米国で1億7000万人が使う人気サービスにも米中対立の影響が及ぶことになる。

中国は国家情報法を17年に施行し、国内のすべての個人と組織に情報活動への協力を義務付けた。中国企業であれば当局の命令に従う必要がある。中国はこの法律が自国企業の海外展開の妨げになっていると理解すべきだ。

運営会社は不安の高まりを受けて、米国の利用者の情報を米国内のデータセンターで管理すると決めた。だが、中国で働く社員が米国の利用者情報にアクセスしている疑惑が浮上するなど、懸念を解消できていない。

動画を表示する順番を決めるアルゴリズムが世論工作に悪用される懸念もある。運営会社は否定するものの、TikTokでは香港の民主化など中国当局に不都合な内容の動画が少ないとの調査結果がある。SNSの選挙などへの影響が大きくなるなか、警戒を強めるのは当然のことだ。

カナダや欧州などでも当局がTikTokに対する警戒を強める一方、日本はリスクの認識が十分とはいえない。法規制に踏み込むかどうかは別として、言論空間がゆがめられるリスクなどについて実態解明に取り組むべきだ。

利用者もTikTokが異質な法体系に縛られるサービスであることを理解して使う必要がある。格安商品の販売で支持を広げる「Temu(テム)」など中国発の越境通販アプリの利用にもプライバシーの侵害といったリスクが伴うことに注意したい。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。