日本製鉄はアメリカの大手鉄鋼メーカー、USスチールをことし9月までに子会社化する買収計画を去年12月に発表しました。

これについて、USスチールは12日、臨時の株主総会を開き、日本製鉄による買収計画は「株主の圧倒的な賛成多数で承認された」と発表しました。

日本製鉄はUSスチールの株主に対して両社が買収に合意した時期の株価に40%上乗せした価格を支払うとしていて、買収額はおよそ2兆円にのぼる見通しです。

USスチールのデビッド・ブリットCEOは今回の承認について「私たちは両社の強みを結集し、世界をリードする最高の鉄鋼メーカーとしてともに進んでいくことに一歩近づいた」という声明を出しました。

ただ、この買収をめぐってはアメリカの鉄鋼業界の労働組合が反対し、組合を支持基盤とするバイデン大統領も外国企業による買収に否定的な考えを示しています。

今後は日本製鉄と組合との交渉のほか、国家の安全保障上の観点などから審査を行うアメリカの関係当局の承認が買収完了に向けた焦点となります。

日本製鉄の提案内容は?

日本製鉄はUSスチールや労働組合に対しさまざまな提案を行い、買収の実現を目指しています。

USスチールの買収額については、買収を発表した去年12月当時のUSスチールの株価に40%を上乗せした価格を提示しました。

総額で2兆円にのぼる見通しです。

労働組合に対しては
▽買収による組合員の解雇や工場閉鎖は行わないこと
▽買収の完了後に雇用を生み出すことにつながる新たな追加の投資を行うことなどを示しています。

このほかにも
▽ペンシルベニア州のピッツバーグにあるUSスチールの本社や、会社の名称、ブランドなどを維持するとしているほか
▽買収完了後にテキサス州にある日本製鉄のアメリカ本社をピッツバーグに移転させる計画も明らかにしています。

日本製鉄は「労働組合と一致点を見つけ政治的な動きにストップをかけていくのが重要だ」としていますが、依然として労働組合側は買収に反対する姿勢を続けていて、今後の労働組合との交渉が最大の焦点となっています。

日本製鉄の狙いは?

アメリカは鉄鋼製品で先進国最大の市場で、人口の増加などを背景に今後も安定的な成長が見込まれています。

日本製鉄としては日本国内で需要の拡大が期待できないなか、これまでインドや東南アジアでの事業を強化してきましたが、さらに、USスチールの買収によってアメリカ市場を強化する狙いがあります。

世界鉄鋼協会のまとめによりますと、2022年の粗鋼の生産量は、日本製鉄が4400万トンあまりで世界4位、USスチールは1400万トンあまりで世界27位となっています。

両社の生産量を単純に合計すると、5800万トンあまりとなり、世界3位になります。

日本製鉄は粗鋼生産能力を1億トンにする目標を掲げ、海外事業の拡大が戦略上欠かせません。

一方、脱炭素が世界の流れとなるなか、製造過程で多くの二酸化炭素を排出する鉄鋼業界は、環境対応の強化を迫られています。

USスチールは、「電炉」と呼ばれる二酸化炭素の排出が比較的少ない生産設備を持つアメリカの企業を2019年に買収しました。

日本製鉄も、水素を活用した生産技術の開発を進めていて、今回の買収は、両社の環境技術を組み合わせ、競争力を強化する狙いもあります。

日本製鉄 森高弘副会長「買収完了に向けた大きな一歩」

USスチールの臨時の株主総会で買収計画が承認されたことについて日本製鉄は森高弘副会長のコメントを発表しました。

このなかでは、「買収完了に向けた大きな一歩が踏み出されたことは大変喜ばしいことと思っています。私たちの目指すものは当初から一貫して明確であり、設備投資の拡大や先進技術の提供を通じて関係するすべてのステークホルダーの利益のために、米国市場において、USスチールを支え、成長させることです。USスチールとともに総合力世界ナンバーワンの鉄鋼メーカーとして前進することを楽しみにしています」としています。

その上で改めて買収による組合員の解雇や工場閉鎖は行わないこと、ペンシルベニア州のピッツバーグにあるUSスチールの本社や、会社の名称、ブランドを維持することなどを強調しました。

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