ソニーのスマホ新モデル「Xperia 1 Ⅵ」

ソニーグループ傘下のソニーやシャープ、FCNT(神奈川県大和市)の3社は16日までに、スマートフォンの新モデルを6〜8月に発売すると発表した。米アップルの「iPhone」が圧倒的に支持されている日本市場。消費者の買い替えサイクルが長くなり、大きな成長が望めないなかでも新製品開発を続ける各社の目的を探った。

スマホは最新技術のショーケース

15日午後4時。ソニーがYouTubeの公式チャンネルでスマホ新モデル「Xperia 1 Ⅵ(エクスペリア・ワン・マークシックス)」の発表を始めると、ほぼ同時に「X(旧ツイッター)」では賛否両論があふれ出した。「ソニーの本気を感じる」「カメラ機能がすごすぎて、多分使いこなせない」「国産の最上位機種だから欲しいけれど、20万円近くもするのか。手が出ない」――。

新モデルの特長は一般消費者の感想通りだ。レンズ部分を高度化し、遠くに飛ぶ鳥でも鮮明に撮影、近くの花なら雄しべの形状がくっきり分かる接写を可能にした。先端技術や設計の工夫で、音の臨場感やバッテリーの持ちにもこだわった。

足元のスマホ市場は新モデルの投資回収の壁になる材料でいっぱいだ。

まず、日本国内は「iPhone」による1強体制が確立されて久しい。出荷台数ベースの市場占有率はアップルが過半を超えており、約6%のソニーはシャープ、米グーグル、韓国サムスン電子に続く5位だ。

世界をみると、アップルですら苦戦する。同社の2024年1〜3月期決算は売上高が前年同期比4%減の907億5300万ドル(約14兆円)、純利益が2%減の236億3600万ドルとなり、4四半期ぶりの減収減益だった。売上高の約半分を占めるiPhoneが10%減になったのが主因で、スマホ市場の成熟が鮮明になっている。

再び日本に目を向ければ、スマホ価格高騰による消費者離れに直面する。総務省によると、23年10〜12月の期間で国内通信キャリア4社が販売するスマホのうち半分以上が8万円を超える製品で、10万円超えも珍しくない。

通信料金に端末価格を転嫁しない施策とスマホ機能の高度化によるものだが、結果として消費者は最先端の新製品から遠ざかり、そこそこの機能のスマホを長く使う傾向を強める。MM総研によると、22年度の中古販売台数は21年度比1割増の234万台となり、23年度も1割増える見込みだ。

こうした環境下でソニーが新モデルにこだわるのは、スマホが最新技術を示すための「ショーケース」でもあるからだ。23年のモデルでは画像センサーで世界シェア首位の半導体子会社が開発した新型センサーを世界で初めて搭載した。暗い場所での撮影性能を従来の約2倍にし、昼夜を問わず、本格的なデジタル一眼カメラに遜色のない色の表現ができるという。

かつては音響機器やテレビなどエレクトロニクス事業で成長してきたソニーグループだが、今はエンターテインメントを成長の柱に据え、連結営業利益の半分以上をゲームや映画・アニメ、音楽が稼ぐようになっている。エクスペリアは画質と音質によりコンテンツの視聴環境を整え、エンタメ事業の成長を下支えしている。

ブランド戦略の面でも役割は大きい。コンテンツは作品そのものや監督、アーティストなど個人の作り手に注目が集まる傾向があり、レーベルやスタジオとしてのソニーの名前は比較的薄まりやすい。一方、ハードはブランド名を重視する消費者が多い。ソニーブランドを世界に浸透させ続ける上で、エクスペリアの冠が果たす役割は小さくない。

シャープ、消費者との接点残す

14日に大がかりな液晶パネルの構造改革を打ち出したシャープ。業績悪化に歯止めをかけるため、テレビ向けの生産から撤退し、主要拠点の堺市の工場は今秋に停止する。三重県多気町などの工場で手掛けるスマホ用も生産規模を縮小する。

この6日前に発表したスマホ新モデル「AQUOS(アクオス) R9」からは改革の先取りが読み取れる。日が当たるところでも見やすいことが売りのディスプレーは、実は液晶ではなくOLED(有機EL)だ。供給元は非開示で、自社生産だけでなく他社からも調達しているもよう。自社OLEDの生産ラインは停止する堺市の工場にあるため、今秋以降は完全に外部調達に頼ることになる。

アクオスブランドは独自開発の液晶テレビから始まり、携帯電話、スマホへと発展してきた経緯がある。今後は部材の生産よりも駆動技術など画面の映し方にこだわり、ブランド力を維持する施策が必要になってくる。

また、シャープは洗濯機や冷蔵庫、エアコンなど消費者向けの製品を国内外で多数展開する。親会社である台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業では、海外市場を含めて消費者に浸透したシャープの名前の価値を認める意見がある。アクオスブランドに好印象を持ち何世代も買い続ける根強いファンもおり、消費者との接点を維持する観点からはスマホ新製品を出し続けることには一定の意義がある。

FCNTは23年5月に経営破綻し、同年9月に中国レノボ・グループの傘下に入った。もともとは富士通の携帯電話子会社で、シニア向けの「らくらくホン」を主力製品としていたが、海外スマホの競争激化などで資金繰りが行き詰まった経緯がある。16日に発表した新製品「arrows We2 Plus」(アローズ・ウィーツー・プラス)ではスマホ背面についているセンサーで自律神経を計測し管理する機能を搭載。シニア向けスマホで培った操作のしやすさや丈夫さに加え、ヘルスケア機能を打ち出し再起をはかる。

スマホは生活や娯楽などあらゆる面で暮らしを支える必需品だ。常に携帯する相棒としてブランドに愛着を持つ消費者は少なくない。メーカーには飽和した市場のなかでも常に新しい需要を開拓し、持続可能なビジネスモデルを確立することが求められている。

(佐藤諒、窪田真奈、岡本康輝)

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