【バンコク=藤川大樹、北京=河北彬光】南シナ海のスプラトリー(中国名・南沙)諸島のアユンギン礁を巡り、領有権を争うフィリピンと中国の対立が激化している。中国側は、フィリピンが同礁の軍事拠点への補給活動を制限する「密約」に同意したと暴露し、今月には中国外交官とフィリピン軍幹部との通話記録を一部メディアに公表。フィリピン側は盗聴防止法に違反して通話を無断録音し、偽情報を拡散した疑いがあるとして調査を始めた。

◆衝突回避の「新たなモデル」で合意?

 フィリピンからの情報によると、中国大使館は4月に衝突回避のための「新たなモデル」で合意していたと公表。フィリピン政府は「いかなる合意も結んでいない」と否定したものの、5月上旬になってフィリピン紙2紙が、中国政府高官からフィリピン軍西部方面隊のカルロス司令官が同意していたことを示す通話記録を入手したと報じた。  通話記録によれば、カルロス氏は1月、アユンギン礁でのフィリピン軍の補給活動を事前に中国へ知らせることや、軍事拠点となっている揚陸艦の駐留部隊へ届けるのは水や食料に限り、艦を修理・補強するための建築資材を持ち込まないことなどを約束したという。  フィリピンのアニョ国家安全保障補佐官は10日、中国大使館が通話記録を基に偽情報を拡散したとして、関与した外交官を国外追放すべきだと反発。フィリピン外務省は14日、「外交官による違法行為に関するあらゆる報告を調査し、現行の法令に従って必要な措置を講じる」と述べ、司法省も捜査官に調査を命じた。  これに対し、「フィリピン側が正当な理由なく一方的に合意を破棄した」としてきた中国側は、密約が存在するとの立場を崩していない。2021年末にドゥテルテ前政権との間で補給活動を制限する「紳士協定」を交わし、マルコス政権下でも同様の内容で確認したと、重ねて主張する。  中国外務省の汪文斌(おうぶんひん)副報道局長は16日の記者会見で、「公表してきた内容は全て客観的事実だ。フィリピンは約束を守り、ただちに挑発をやめ、議論を通じた交渉に戻ることを勧める」と述べた。  アユンギン礁を巡ってはフィリピン軍が1999年、意図的に付近で座礁させた揚陸艦に軍部隊を駐留させ、実効支配を継続。同礁付近では最近、フィリピン船が中国海警局の艦船などに妨害される事案が相次いでいる。 

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