【台北=石井宏樹】1月の台湾総統選で当選した民主進歩党(民進党)の頼清徳(らいせいとく)氏(64)が20日、総統に就任した。就任演説で「台湾と中国は互いに隷属しない」と、前政権の「現状維持」路線継承を強調。中国側には対等・尊厳の原則の下での対話を求めたが、頼氏を「独立派」と位置づける中国は早速反発。少数与党となった立法院(国会)では、法案採決を巡って混乱が起きており、内外に課題を抱えた「内憂外患」の多難な船出となった。

◆「封じ込めでなく交流を望む」

 頼氏は総統府前の広場に設営された舞台に現れると、強風の中、厳しい表情で演説に臨んだ。

台湾総統府

 「中国からのさまざまな脅威や浸透に対して台湾を守る決意を示し、市民の自衛意識を高めなければいけない」と、防衛や経済安全保障の強化を訴えた。日米を念頭に民主主義国と連帯することで「抑止力を発揮して戦争を回避し、実力によって平和の目標を達成しなければならない」と強調。中国に対して「台湾人民の選択を尊重することを望む」と訴えた。  頼氏は「対抗ではなく対話を、封じ込めではなく交流を望む」と対話にも言及。相互の観光往来と台湾への留学の再開をその一歩として提案した。

◆「独立工作者の本性を現した」

 ところが、中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の報道官は「台湾独立工作者の本性を現した」と強く批判。中台対話の兆しは見えない。  頼氏はねじれ議会について就任演説で「与野党が各自の理念を共有し、さまざまな挑戦を共同で担っていける」と野党に理性的な対応を呼びかけた。  融和を呼びかけなければならないほど、対立は深刻だ。

◆「台湾を分裂社会にした」と抗議

 就任式直前の17日、立法院(113議席)の改革関連法案の採決を巡り、強行採決を図った国民党と、阻止しようとした民進党の立法委員(国会議員)が衝突してけが人が出た。  19日には台湾民衆党が、民進党本部前で8000人規模の抗議集会を開いた。柯文哲(かぶんてつ)党主席(党首)は「民進党は台湾を分裂社会にした。再び強権的な体制にすれば、革命をしなければいけない」と新政権をけん制。参加者は台湾で「空手形」を意味する果物グアバを掲げて、住宅問題などで公約を果たせなかった民進党を皮肉った。  立法院ではいずれの党も過半数をとれず、第3党の台湾民衆党が法案可決の成否を握る不安定な議会構造になっている。

◆「政権批判だけの反対には厳しい目」

 台湾政治に詳しい台北海洋科技大の呉瑟致(ごしつち)助理教授は「経済や国家安全保障、外交などの分野で、国民党と台湾民衆党が同じ立場で動いており、新政権へのプレッシャーとなっている」と、頼氏が期待する与野党「共同」にはほど遠い状態だと指摘する。  一方で呉氏は、政権批判のためだけの反対には、有権者は厳しい目を注いでいると分析。「地方政策など敏感でない政治問題から、野党議員の協力を促していくべきだ」と、与党による粘り強い議会対策が政権の成否の鍵を握るとみる。   ◇  ◇

◆「日台関係は重要」日本から31議員が就任式に

 【台北=石井宏樹】頼清徳総統の就任式に出席した超党派の「日華議員懇談会」は20日、台北市内のホテルで記者会見した。古屋圭司会長(自民党)は「中国の脅威が増す中、日台関係はより重要だ。台湾有事を起こさないため、日台だけでなく、米国など共通の価値観を持った国との連携強化を徹底しなければならない」と話した。

20日、台北市のホテルで、頼清徳新総統とのやりとりなどを説明する日華議員懇談会の古屋圭司会長=石井宏樹撮影

 就任式に過去最多となる31人の国会議員が参加。懇談会メンバーは、頼氏や最大野党国民党の韓国瑜(かんこくゆ)立法院長(国会議長)との食事会に出席して意見交換。頼氏は、議員団の訪台に感謝を示すとともに「日台関係の強化が世界全体のバランスにとって必要だ」と話したという。  懇談会側は頼氏に対し、日米議員と台湾の立法委員(国会議員)との戦略対話を近く開催するほか、台湾が加盟を求める「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定」(CPTPP)について加盟支持に向けたプロジェクトチームを立ち上げることなどを伝えた。 

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