パレスチナ自治区ガザでの戦闘をめぐり、国際刑事裁判所(ICC、オランダ・ハーグ)の検察局が20日、イスラエルのネタニヤフ首相とガラント国防相、イスラム組織ハマスの幹部3人に戦争犯罪や人道に対する犯罪の容疑で逮捕状を請求したことを受け、イスラエル国内では強い反発が広がっている。ガザでの戦闘方針で対立を深めていた政権内や与野党は、ICCの発表を受けて一時的に歩調を合わせる姿勢を見せた。

 ネタニヤフ首相はビデオ声明で、ICCの決定を「歴史的な道徳的暴挙」と評し、イスラエルとハマスの指導者を同等に語るのは誤っていると批判した。

 ヘルツォグ大統領も、決定は「言語道断であり、国際司法制度の崩壊の危険性を示している。世界中のテロリストを勇気づける、裁判所の基本規則に反するものだ」と同調。世界各国にこの措置を「強く拒否」するよう呼びかけた。

  • ICC逮捕状請求に反発広がる、ネタニヤフ氏「歴史的暴挙」ハマスも

 ガザなどでの戦闘方針を決める戦時内閣は、戦後統治案をめぐる意見の対立が今月に入り表面化していた。メンバーのガラント国防相がネタニヤフ氏の姿勢を公の場所で批判。さらに同じくメンバーのガンツ前国防相は、戦闘終結後の統治計画の方向性を自ら示し、これにネタニヤフ氏が承認しない場合、政権から離脱する考えを表明し、足並みの乱れが深刻になっていた。

 戦闘が長期化する一方で、ガザに連れ去られた人質の解放が進まない現状に世論の不満も高まる一方だった。

 だが、今回のICCの動きに対しては、与野党問わず、ほとんどがICCへの批判で一致している。

 ネタニヤフ氏批判の急先鋒(きゅうせんぽう)で、最大野党の党首ラピド前首相は「我々を襲った10月7日の虐殺の後でこのような逮捕状が発行されることは許されない。黙って見過ごすつもりはない」と怒りをあらわにした。

 ガンツ氏も「イスラエルはテロ組織による大虐殺を受け、最も公正な戦争を戦っている。(ICCの)検察の姿勢を受け入れることは歴史的な犯罪だ」との声明を発表した。

 地元保守紙イスラエル・ハヨムは21日の朝刊で「ハーグの恥」、地元中道紙イディオト・アハロノトは「ハーグの偽善」との見出しをつけた批判的な論調で、今回の逮捕状請求を報じた。

 地元紙マアリブも21日、ネタニヤフ氏らがハマス幹部らと一緒に逮捕状の請求を受けたことについて、「選挙で民主的に選ばれた指導者たち」と「大量殺戮(さつりく)をおこなったナチス」を結びつけた決定は、ICCの信頼性を損なうものだと報じた。

 ただ、イスラエルに対して国際機関の厳しい動きが相次いでいる背景には、ネタニヤフ氏が2022年末に政権に返り咲いて以来、極右政治家らとの連携を重視してきたことが「一因としてある」とも指摘。今回の逮捕状でネタニヤフ氏が「目を覚ます」ことになる、と続けた。

 地元紙の記者の一人は、今回の逮捕状請求について、「イスラエル国民の大多数は自国のリーダーたちを批判していたとしても、国外から彼らをハマスと並べられることは受け入れられない。結果的に高まっていたネタニヤフ氏批判に冷や水を浴びせるものになった」と述べた。(エルサレム=高久潤)

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