飲食店やスーパーで売れ残りそうな商品をお値打ち価格で予約販売するアプリが、米国や欧州で人気を呼んでいる。インフレの中、食品ロスの削減に貢献しながら、食費を抑えることができる優れものだ。ワシントンの物価高に悩む記者も試してみた。(ワシントン・鈴木龍司、写真も)

◆2億人が利用、北欧発の「Too Good To Go」

 ランチはピザやサンドイッチと飲み物のテイクアウトで済ませても15ドル(2340円)ほど。スーパーは卵1パックとキャベツ1玉が各4ドル(624円)、サーモンの切り身やベーコンのパックは7ドル(1092円)前後。日本人の駐在員には、記録的な円安も追い打ちをかけている。  「『この値段で、こんなにたくさん買えるの?』ってびっくり。食べ物の無駄も減らせて、お得なアプリです」。ワシントン近郊で暮らすエンジニアのクリスティーナ・デングさん(24)が薦めるのは「Too Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)」のアプリだ。値引きされたパンをよく購入しているそうだ。

近所の登録店を検索し、注文できる「Too Good To Go」のアプリの画面

 2015年に北欧のデンマークで設立された同社は、食品の廃棄を減らしたい店舗と消費者をつなぐアプリの先駆者。欧州各国に事業を広げ、20年に消費大国の米国に進出した。同社によると、欧米での利用者は延べ2億人を突破し、提携先の店舗は19万店に迫る。

◆残量の多い具材を使用

 早速、アプリをダウンロードし、スマートフォンでサイトを開くと、予約を受け付けている近所の店の情報が表示された。ファストフードやパン、デザート。正規価格は15ドルほどする料理や食材を3分の1の5ドル前後で販売している。ただ、具体的なメニューの表記はなく、どれも「サプライズバッグ」と書かれている。店側が食材の残り具合で商品を決めるため、中身はバッグを開けてからのお楽しみという仕組みらしい。  テイクアウトの受け渡しの指定も、ランチやディナーのピークが一段落した後の時間帯が目立つ。地中海料理のファストフード店を選んだ記者の予約は、閉店間際の午後10時前だった。  空腹を我慢して店を訪ねた。この日のサプライズバッグは、ライスにチキンや野菜が乗った「ボウル」と呼ばれる丼物だった。店員は残量が多い具材を優先的に盛り付けていた。定価は15ドル。支払いは4.99ドルで済んだ。食べ応え十分で、鮮度も問題なし。完食後、無意識にアプリを開き、次の店を探していた。

記者が利用したワシントンのファストフード店。店員は「ボウル」と呼ばれる丼物を作る際、残量が多い食材を優先的に盛り付けていた

アプリを使い、ワシントンのファストフード店で購入した「ボウル」と呼ばれる丼物

◆温暖化対策にも

 「私たちの使命は世界中の食品廃棄問題を解消することです」。同社で北米市場の広報を担当するサラ・ソテロフさんは「米国は食料供給量の4割が捨てられている」と、食品ロスの深刻さを指摘する。  米環境保護庁の調査では19年の米国内の食品廃棄は計6621万トンに上り、発生源は飲食店とスーパーが全体の4割を占める。食品ロスによる1家族(4人)の損失額は日本の3倍以上の水準で、廃棄食品の埋め立てによる温室効果ガスのメタンの排出も課題だ。米政府は昨年末、30年までに廃棄食品を半減させる国家戦略を策定するなど、対策に本腰を入れている。  同社によると、米国でのアプリ登録者は740万人に急拡大。近年の物価高も追い風だ。ソテロフさんは「消費者はおいしい食品を安く入手でき、店は捨てるはずだった食品から収入を得られる」と、双方の利益を強調する。  欧米では同種のアプリが普及し、「フードシェアリング」や「フードレスキュー」と呼ばれる。日本でも「TABETE(タベテ)」などのアプリが都市部を中心に広がりつつある。トゥー・グッド・トゥー・ゴーの担当者は「現時点でアジアへの進出計画はないが、世界中に事業を拡大することが目標だ」と話す。 

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