イランでは5月19日、ヘリコプターが墜落し、ライシ大統領をはじめ搭乗していた8人全員が死亡しました。

この事故を受けて、6月28日に大統領選挙が行われることになり、30日、立候補の届け出が始まりました。

首都テヘランにある内務省の受け付けには早速、立候補を希望する人たちが訪れ、手続きを行っていました。

届け出は6月3日に締め切られ、その後、大統領を担うのにふさわしいかについて事前の資格審査が行われ、11日に候補者が決まる予定です。

審査を行う「護憲評議会」はイスラム法学者などで構成され、最高指導者のハメネイ師らが人選を行うため、その意向が審査の結果にも大きく反映されるとみられています。

イランはパレスチナのガザ地区で、イスラエルとの戦闘を続けるイスラム組織ハマスの後ろ盾となるなど中東情勢に深く関与しているほか、核開発などをめぐり欧米との対立が続いていて、保守強硬派のライシ政権の外交方針が継承されるのかどうか、立候補者の顔ぶれに関心が集まっています。

市民の声 選挙で望むことは

今回の大統領選挙に何を期待するのか、イランの首都テヘランで市民に話を聞きました。

欧米から経済制裁を科されたままの現状について、21歳の男性は「将来に希望が持てるように経済をよくしてほしいです。ただ、これまでのやり方では希望がなく、すべてが悪い方向に進んでいます。今は国が閉ざされ、世界と隔絶されていますが、核合意が成立し、もっと国が開かれていたときに 戻るべきです」と話し、機能不全に陥っている核合意の再建に向けて欧米などと対話することに期待を示しました。

一方、パレスチナのガザ地区の情勢をめぐって、イランはイスラエルを非難し、イスラム組織ハマスを支持していますが、50歳の女性は「パレスチナの人々を支援することは抑圧された人たちを助けることを意味します。わたしたちは世界で正義が実現される環境を作らなければなりません」と話し、次の政権にもライシ政権の中東政策を継続してほしいとしています。

また、事前の審査によりこれまで多くの有力候補が失格になってきた選挙のあり方について73歳の男性は「残念ながら有能な人たちは審査で排除されて隅に追いやられてきました。これは大きな過ちです。もっとオープンなやり方にして今とは異なる人たちが政治に関わるようにするべきです」と話していました。

一方、80歳の男性は「イラン国民なら絶対、投票に行くべきです。ライシ大統領が敷いた道を引き継いでくれる候補を応援します」と話していました。

前回3年前の大統領選挙では投票率が48.8%と、1979年に今のイスラム体制が樹立されて以来、最低となっていて、今回、投票率がどうなるかも注目されます。

大統領選挙の仕組み

イランの大統領選挙は国民による直接選挙で、原則18歳以上に選挙権が与えられます。

大統領選挙に立候補できるのは、40歳から75歳までとされています。

ただ、イランでは、立候補を希望していても、大統領を担うのにふさわしいか、「護憲評議会」と呼ばれる組織による事前の資格審査で承認を得る必要があります。

基準は▼修士か、それと同等以上の学歴を持つことや、▼国の要職などの経験が4年以上あること、それに▼イスラム体制に忠実かなど、多岐にわたります。

「護憲評議会」はイスラム法学者など12人で構成され、そのうち半数は、最高指導者のハメネイ師が任命しているため、その意向が審査の結果にも大きく反映されるとみられています。

前回2021年の大統領選挙では600人近くが立候補を届け出ましたが、この審査で7人に絞り込まれました。

特に、欧米との対話を重視する「穏健派」や「改革派」と呼ばれる勢力の有力候補は相次いで失格となり、結果として保守強硬派のライシ政権が誕生することになりました。

地元新聞 編集長「どこまでのレベルの候補者が認められるか」

今回の選挙について、イランの政治に詳しい地元の新聞「ハミハン」のモハンマドジャバド・ルフ編集長は、NHKの取材に対し「前回の大統領選挙でもさまざまな派閥から候補者が出た。ほとんどがライシ師を際立たせるための候補だった。今回も同じことが予想されるが、重要なのはどこまでのレベルの候補者が認められるかだ」と述べ、事前の資格審査で保守強硬派以外の改革派や穏健派から、どれだけ有力な人物の立候補が許容されるかが、注目すべきポイントだと指摘しました。

また、イランでは大統領以上に最高指導者に多くの権限があることに触れたうえで「大統領という立場に限界はあるものの、人々の暮らしや経済を左右することは間違いない。外交面でも、ハメネイ師が最高指導者をしているこの間、アメリカへの反発など、スローガンは大きく変わっていないものの、戦術的、戦略的には変化があった」として、大統領によって欧米などとの向き合い方には違いが出ると指摘しました。

その上で「イランは今、ガザの戦闘でもウクライナの戦争でも国際的な圧力に直面している上、アメリカでバイデン大統領が去り、トランプ氏が戻ってくることを心配している。外交政策に変化が求められるときは、政府も変わる」と述べ、選挙の結果次第では、対立が続く欧米各国との関係など外交政策にも変化が生じる可能性があるという見方を示しました。

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