大統領経験者としては初めてとなる有罪の評決
“有罪評決 トランプ氏にわずかに不利” 世論調査データも
支持率低迷のバイデン大統領 自身への投票訴え
専門家は
量刑の審理や今後の手続き
アメリカのトランプ前大統領が不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で、ニューヨーク州の裁判所の陪審員は30日、大統領経験者としては初めてとなる有罪の評決を下しました。量刑を決める審理は7月11日に開かれる予定で、これは共和党が11月の大統領選挙に向けてトランプ氏を党の候補者に指名する全国党大会の開幕の4日前にあたります。評決後、トランプ氏は「不正で恥ずべき裁判だ」などと述べて、バイデン政権が政治的な意図を持って司法を利用したという主張を繰り返しました。共和党内ではトランプ氏に同調する意見が相次いでいて、トランプ氏は大統領選挙に向けて党内の結束を強めるため「裁判は選挙妨害を目的としたものだ」などと訴え続けるとみられます。
共和党の議会上院トップ、マコネル院内総務はSNSに「このような起訴はそもそもなされるべきではなかった。控訴審で有罪が覆ることを期待している」と投稿しました。マコネル氏は3年前、アメリカ連邦議会への乱入事件が起きた際にトランプ氏を批判するなど、トランプ氏と対立してきたことで知られていますが、今回はトランプ氏を擁護しました。連邦議会の指導部では、上下両院それぞれのトップ3がいずれも「民主党が政敵に対して司法制度を武器にした」などとトランプ氏の主張に同調しました。背景にはトランプ氏が党内で圧倒的な支持を集めていることに加え、今回、事件の捜査を指揮したブラッグ検事が、選挙で選ばれるニューヨーク州のマンハッタン地区検察の検事に民主党から立候補していたことや、裁判が民主党支持者が多いニューヨーク州で行われたことがあるとみられます。
アメリカの憲法では大統領になるには犯罪歴が制約となるとは明記されていないため、アメリカのメディアは有罪の場合も立候補は可能だと伝えています。アメリカでは、トランプ氏に対する評価がすでに固まっている人が多く、今回の有罪の評決がどこまで選挙情勢に影響を与えるかは現時点では未知数ですが、トランプ氏にわずかに不利に働くという世論調査の結果もあります。アメリカの公共ラジオ「NPR」などが30日に発表した世論調査によりますと、有罪評決が出ても、3人に2人にあたる67%は自分の投票行動が変わることはないと答えています。これに対し、投票行動が「変わる」という人の中では、トランプ氏に投票する可能性が「低くなる」と答えた人が17%いる一方で、逆にトランプ氏に投票する可能性が「高くなる」と答えた人が15%いました。トータルで見た場合、有罪の評決はトランプ氏にわずかに不利に働くことをデータは示しています。今回の選挙戦はもともと接戦が予想されていて、有権者の動向のわずかな変化が大統領選挙の結果を左右する可能性があります。一方で、トランプ氏に投票する可能性が「高くなる」と答えた人も一定数いたことは「政治的な策略だ」というトランプ氏の主張に共感し、有罪評決がむしろ求心力を高める側面があることもうかがわせています。トランプ陣営は有罪の評決が出たあと「多くの国民がトランプ氏の選挙キャンペーンに寄付したいと心を動かされ、サイトがダウンした」とSNS上にメッセージを投稿しました。また、共和党は党を挙げて「民主党が司法を政治的に利用したものだ」と有罪評決を批判していて、トランプ氏のもとでの一枚岩を強調しています。
一方、再選を目指すバイデン大統領は、長引くインフレや中東情勢への対応に対する反発などから支持率は低迷しており、支持基盤の若者や黒人の有権者離れも指摘されています。バイデン陣営は評決を受け「トランプ氏を大統領の職に就かせないための唯一の方法は選挙での投票だ」とする声明を即座に出して、バイデン氏への投票を訴えました。11月までの5か月余りの選挙戦で、バイデン氏、トランプ氏の双方が、今回の評決を追い風に変えて支持と資金を集めようとするとみられていて、これに有権者がどう反応するのかが今後の大きな焦点となります。
アメリカン・エンタープライズ研究所のカーリン・ボウマン名誉上級研究員は「ほとんどのアメリカ人はこの選挙で誰に投票するかをすでに決めている。これまでの世論調査ではトランプ氏が有罪の場合でもおよそ3分の2の人たちは投票行動は変わることはないと答えていて、その数字は選挙戦中、驚くほど一貫していた。残りの人たちについてもトランプ氏に投票する可能性が低くなると答えた人と高まるとした人で二分している」と指摘しました。そのうえで「今回の有罪評決が有権者全体の声に大きく影響を与えることはないし、大統領選挙が接戦になるという事実も変わらないだろう」と述べて、今回の評決が有権者全体の投票行動には大きくは影響しないという見方を示しました。一方で、7月15日から共和党の大統領候補としてトランプ氏を正式に指名する党大会が始まるのに対し、量刑を決める審理がその4日前に開かれるというスケジュールについて「トランプ氏は共和党の全国党大会の直前に再び裁判官の前に連れてこられ、量刑について審理される。有権者に再び裁判のことを思い出させるだろう。こうしたことが投票行動を決めていないごく一部の有権者に影響を与える可能性もある」と述べ、接戦が予想される中では一部の有権者の投票行動の変化にも注視する必要があるとしています。
アメリカ政治に詳しい慶應義塾大学の渡辺靖教授は「陪審員全員の判断が一致しないでやり直しになるとの見方もあったが、12人の陪審員全員がわずか2日で判断の一致を見たのは驚きだ。それだけ強い証言、証拠に接したということだろう」と述べました。ことし11月の大統領選挙に与える影響については「有罪でもトランプ支持者は揺るがないだろうし、支持しない人は無罪だったとしても不支持のままだっただろう。選挙戦の構図を大きく変えることはない」と分析しました。そして「仮に量刑が軽くても有罪の人物が大統領になることをよしとしない有権者が背を向ける可能性もある。特に激戦州ではそうしたわずかな票の行方が重要になる」と述べ、今回の評決が共和党の中道派や無党派層の投票行動に影響を与える可能性もあると指摘しました。トランプ陣営の対応については「民主党による政治的迫害、魔女狩りだと訴え続けるとともに、できるだけ裁判の長期化を図るためまず控訴はするだろう。陣営としてはとにかく長引かせて秋の大統領選挙までに有権者の意識から消え去っている状況にもっていきたいと考えているだろう」と述べました。また、バイデン陣営の選挙戦略については「基本的には追い風になるだろう。ただ、最大の関心事はインフレの高止まりで、バイデン大統領がトランプ氏の今回の有罪の評決を繰り返すばかりでインフレの鈍化が体感されないと、かえって民主党にとって逆風になるリスクもある」と指摘しました。
量刑を決める審理は7月11日に開かれます。量刑の判断は裁判官に委ねられています。ニューヨークの州法では業務記録の改ざんは「軽犯罪」にあたりますが、トランプ氏が2016年の大統領選挙で不利にならないようにする目的で業務記録を改ざんしたことが「重罪」にあたるとしています。今回、トランプ氏は小切手や伝票ごとに問われた34の罪すべてで有罪となりました。それぞれの量刑は最大で4年の拘禁刑ですが、複数の罪を一体とみなして刑期が併合されるという見方などもあり、量刑をめぐる見方は専門家やメディアの間でも分かれています。ただ有罪になったとしても、初犯で高齢であることなどから収監される可能性は低いという見方はおおむね共通し、罰金刑などにとどまる可能性も指摘されています。トランプ氏には、今後も対抗する手段が残っています。まず、審理が適切に行われなかったなどと申し立てを行うことができます。また、量刑が言い渡されたあと、ニューヨーク州では30日以内に控訴することができます。
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