ことし4月から7回に分けて投票が行われたインドの総選挙は、543選挙区すべての投票が終わり、日本時間の4日午前11時半から、一斉に開票が始まる予定です。

選挙戦では、高い経済成長を実現したとして国民にアピールしてきたモディ首相が全国で200回以上の演説を行うなどして、与党インド人民党の支持拡大をはかってきました。

これに対し、野党側は、モディ政権のもとで、多くの人たちが経済発展の恩恵を受けられず、格差が拡大していると訴えたほか、政権が多数派のヒンドゥー教徒寄りの政策を推し進め、少数派のイスラム教徒との宗教間の対立をあおっているなどと批判してきました。

地元メディアは、出口調査の結果、モディ首相率いるインド人民党を中心とした与党連合が、政権維持に必要な過半数の議席を獲得する勢いだと伝えています。

10年にわたって政権を維持してきたモディ政権が3期目を担えば初代首相のネルー氏などに次ぐ、異例の長期政権となり、有権者の判断が注目されます。

3期目を目指すモディ首相 経済成長実現も“格差深刻化”

今回の総選挙で3期目を目指すのがナレンドラ・モディ首相、73歳。

インド西部グジャラート州の出身で、鉄道駅などでチャイと呼ばれる紅茶を売る貧しい家庭で育ちました。

2001年から13年間、グジャラート州の州首相を務め、電力や道路などのインフラ整備を進めたほか、国内外の企業の誘致に取り組み高い経済成長をもたらしました。

2014年に行われた総選挙では、こうした取り組みを「グジャラート・モデル」としてインド全体に広げることを訴え、インド人民党を圧勝に導き首相の座に上り詰めました。

首相就任後は外国からの資本を呼び込み、ものづくり国家の実現を目指す「メイク・イン・インディア」構想に取り組んだほか、道路などのインフラ整備や複雑だった行政手続きのデジタル化なども推し進め、前回2019年の総選挙でも再び圧勝しました。

GDP=国内総生産が世界5位にまで上昇するなど、高い経済成長を実現しましたが、若者の失業や経済格差が深刻化していると指摘され、足元では多くの課題を抱えています。

外交面では海洋進出を強める中国を念頭に日本やアメリカ、オーストラリアとともに4か国の枠組み「クアッド」を形成するなど安全保障や経済の面で欧米諸国と協調する姿勢を強めています。

ただ、インドはロシアの伝統的な友好国でウクライナ侵攻後も欧米がロシアに対して制裁を続ける中、原油の輸入を増やすなど経済関係を強化し、国益を最優先する「全方位外交」を展開しています。

また、去年議長国インドで開かれたG20サミットでは、新興国や途上国が抱える課題を中心に議論を主導し、グローバル・サウスの国々をけん引する姿勢を示すことで、インドの国際社会での存在感を高めようとしています。

一方、政治面では国民のおよそ8割を占めるヒンドゥー教徒を重視する姿勢をとっています。

ことし3月には近隣の国から迫害を逃れてきたヒンドゥー教徒などに市民権を与える改正法の施行が発表されましたが、少数派のイスラム教徒を対象外としていることから宗教による差別だと野党から批判されています。

選挙戦の構図と争点は

1か月半におよんだインド総選挙では、モディ政権の維持を目指す与党インド人民党に対して、最大野党の国民会議派を中心とする野党連合が対抗する構図となっています。

最大野党の国民会議派を率いるのがラフル・ガンジー氏、53歳。

インド独立の初代首相ネルー氏のひ孫にあたり、祖母のインディラ・ガンジー氏や父親のラジブ・ガンジー氏も首相を務めた、インド政界の名門、ネルー・ガンジー家の直系です。

ラフル・ガンジー氏は、前回2019年の総選挙で惨敗を喫した責任をとり、国民会議派の総裁の座を退きましたが、野党支持者などの間で根強い人気があります。

今回の選挙では、国民会議派はほかの地域政党とともに野党連合を結成し、候補者の調整などの選挙協力を進めることでインド人民党1強体制の切り崩しを目指しています。

選挙戦では、経済政策などを争点に与野党が激しい論戦を繰り広げてきました。

インドでは、昨年度のGDP=国内総生産の伸び率が8%を超えるなど高い経済成長を維持していて、IMF=国際通貨基金によりますとインドのGDPは2027年には日本とドイツを抜いて、世界3位の経済規模になるという見通しとなっています。

与党側は、こうした経済成長はモディ首相の強いリーダーシップによって実現されたものだとアピールし、3期目の続投への支持を呼びかけました。

これに対して、野党側は若者の失業や人口の6割以上が暮らす農村の貧困が深刻化しているとして、モディ政権のもとで経済格差が拡大していると強く批判しました。

有権者は10億人近く “世界最大の選挙”

任期満了にともなって5年に1度行われるインドの総選挙は、10億人近くにのぼる有権者の多さから、“世界最大”の選挙とも言われています。

選挙管理委員会によりますと、今回は有権者がおよそ9億7000万人にのぼり、広大なインド各地の100万か所以上に投票所が設置されました。

選挙では下院議会の545議席のうち、大統領が指名する2議席を除く、543議席が小選挙区で争われ、投票はことし4月19日から6月1日までの間に7回に分けて行われました。

インドでは集計作業の効率化のために電子投票が導入されていて、開票は6月4日に一斉に行われます。

一方、今回の選挙期間中、インドは、熱波の影響で一部で最高気温が50度を超える記録的な暑さにみまわれました。

投票所の設置や警備などにインド全土でおよそ1500万人が従事したということですが、熱中症の疑いで亡くなる人が相次ぎ、地元メディアは北部ウッタルプラデシュ州で33人が、東部ビハール州でも10人が死亡したと伝えています。

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