スマートフォンで縦にスクロールしながら読む韓国発のデジタル漫画「ウェブトゥーン」の市場が世界的に拡大している。優れたアイデアをより速く作品にできるよう、人工知能(AI)を活用して作画を手助けする新興企業も登場した。(ソウル・木下大資、写真も)

 ウェブトゥーン web(ウェブ)とcartoon(カートゥーン)を合わせた造語。韓国ネイバー社が2000年代にサービスを開始した。日本ではスマホ向けアプリ「LINEマンガ」「ピッコマ」などで配信され、映画化やドラマ化も展開。新型コロナウイルス禍をきっかけに急伸長した。

ソウルのライオンロケット社で、生成AIを活用してウェブトゥーンの作画を行うソフトを実演するスタッフ(右)

◆10枚の絵で画風を学習させると…

 電子ペンを持ったスタッフがモニター画面に手早く線を引き、片手を上げた人物のスケッチを描く。すると画面の一角に、あらかじめ設定したキャラクターが片手を上げた姿勢で映し出された。一部の線を消してこぶしを握った形に描き直すと、キャラクターも自動的にこぶしを握った。  生成AIを活用してウェブトゥーン制作を支援するソウルの新興企業「ライオンロケット」が開発したシステム。10枚程度の絵を基に作品の画風をAIに学習させれば、簡単な操作でポーズや衣装を調整しながら完成形に近い人物の絵を作成できる。  漫画は物語の構想や下絵、線画、彩色など多くの工程を経て作られる。ウェブトゥーンの場合は各工程を分業化し、紙の漫画よりも効率的に制作されるのが特徴だ。それでも同社によると、一般的な連載の1回分を仕上げるのに約200時間の作業が必要だが、生成AIを使えば10分の1以下に短縮できる。従来のウェブトゥーンは週1回ペースの連載が多いが、理論上は毎日連載も可能になる。

◆「作家はストーリーに集中できる」

 鄭勝煥(チョンスンファン)代表は「非効率な手作業を減らせば、作家はストーリーを考えることに集中できる。世界的にウェブトゥーンの需要が増える中、読者が早く次のストーリーに出合える」とAI活用の意義を語る。

ライオンロケットの鄭勝煥代表

 同社は現在、ウェブトゥーン作家らが所属する韓国や日本の制作会社20社と契約。顧客からキャラクターの原画やストーリーを受け取り、自社スタッフがAIシステムを使いながら作品の状態に仕上げて納品している。ちなみに著作権は顧客にあり、契約終了後に関連データを破棄するので、著作権の問題が生じることはないという。  世界のウェブトゥーン市場は2022年の39億ドルから、32年には676億ドルに拡大するとの市場調査会社の分析もある。韓国政府によると、世界の漫画アプリの昨年の売り上げ5位までのうち4社を韓国企業が占め、特にカカオとネイバーの2系列が有力だ。  こうした優位を生かそうと、韓国政府は自国企業を「漫画・ウェブトゥーン界のネットフリックス(米国の動画配信大手)にする」と掲げ、海外進出を積極的に支援。ウェブトゥーン輸出規模を22年の1億ドル余から27年には2億5000万ドルに増やす目標を描いている。 

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