手話が語る福祉のコーナーです。ロシアの軍事侵攻が続くウクライナでの現状を伝えようとろう者協会の会長が来日し、岡山で講演しました。戦争のような非常時に、ろう者は情報から取り残されてしまいます。

6月2日、岡山を訪れたウクライナろう者協会のイリーナ・チェプチーナ会長。

(ウクライナろう者協会 イリーナ・チェプチーナ会長)
「空襲警報が聞こえる人はすぐに地下に避難し、空爆が終わると地上に戻って生活していた。ろう者は警報の音が聞こえないので、それができなかった」

ロシアの軍事侵攻を受けるウクライナにいるろう者の現状を語りました。

講演会を聞く人の中に、79年前の岡山空襲で同じような体験をした人がいました。ろう者の平井肇さん(90)です。

(岡山空襲を経験 平井肇さん)
「ドンドンという音を聞いた父親に起こされ、窓の外を見ると家の前の山の向こうが真っ赤な火の海だった」

1945年6月29日、当時11歳だった平井さんは恐怖の中、祖母におぶられ逃げたといいます。

(平井肇さん)
「何が起こっているのか分からず、空に大きな飛行機が見えた。あれはB29だったのか爆弾をたくさん落としていった。まるで花火のようだった、本当に怖かった。戦争はやめて平和がいい」

戦争のような非常時には、今も昔もろう者が情報から取り残されてしまうとイリーナ会長は訴えました。

(講演を聞いたろう者は…)
「空爆の音が聞こえない、情報がないから逃げられない昔の日本の戦時中と同じだと思った。情報をきちんと得るということは本当に大事だと思う」

こうした中、イリーナさんたちろう者協会は政府の情報発信に手話をつけてもらう活動を行ってきました。そして今、ウクライナ公共放送のニュースや大統領の演説などには、手話が付けられているといいます。

(イリーナ・チェプチーナ会長)
「国民に確実に情報を伝えるため、政府に交渉し大統領演説に手話通訳を付けてもらったり、国防省の会見映像に手話を付けて配信したりしている。非常時でも忘れられてはいけないのは、聞こえる人と聞こえない人の情報に差が出ないよう、情報が確実に提供されること」

講演でイリーナ会長が使っていたのは世界共通語とされている「国際手話」。音声言語と同じように手話も国や地域ごとに異なりますが、様々な国の人が分かりやすい表現で作られたのがこの国際手話です。今回の講演は、イリーナ会長の国際手話を日本手話に訳し、その日本手話を音声に通訳する2段階通訳で行われました。

(生本ひなの記者)
「ウクライナのろう者が、(日本手話で)国際手話(国際手話で)国際手話を教えています」

教えているのは、ウクライナのろう者ボズコ・ヴォロジミールさん(49)です。戦禍を逃れ、イタリアでの避難生活を経て2年前に群馬に避難してきました。


国際手話を学び言葉を交わすことでお互いを理解する、それは世界の平和につながると信じています。

(ろう者は…)
「本で勉強したが、実際に話したことはない。国際手話は難しいが、今後機会があれば、外国人とのコミュニケーションに生かしたい」

今回、初めての来日となったイリーナ会長。

(イリーナ・チェプチーナ会長)
「軍事侵攻によって、生活が一変した。ゆっくり仕事をしながら送っていた穏やかな生活が侵攻によって奪われた。生活も困難な状況が続き、被害に遭っているろう者の支援も大変」

日本で多発する震災などの自然災害でもろう者が取り残されないか懸念を示しています。

(イリーナ・チェプチーナ会長)
「戦争でも災害でも、取り残されてしまった人がたくさん亡くなることがこれ以上あってはいけない。早く平和が訪れることを願う」

命につながる情報、聞こえる人も聞こえない人も同じように得られる環境が必要です。ろう者にとって地域の手話も国際手話もどちらも大切です。

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