今月6日から9日にかけて行われたヨーロッパ議会選挙で、フランスでは、極右政党の「国民連合」が、マクロン大統領率いる与党連合に対し、獲得議席で倍以上の差をつけて大勝する見通しとなりました。

これを受けてマクロン大統領は、フランスの議会下院にあたる国民議会を解散し、選挙を行うと明らかにしました。

1回目の投票は今月30日に行われ、決選投票は来月7日に行われます。

この決定について今回のヨーロッパ議会選挙で左派政党に投票したという27歳の男性は「マクロン大統領は国民に選択肢を与えるために解散したという印象もあるが、その反面、極右政党に対して門戸を開くことになるので、非常に危険ではないか」と述べ、大統領の決定を疑問視し、極右政党のさらなる躍進に懸念を示しました。

また、社会党に投票したというパリ郊外に住む56歳の女性も、「選挙は危険だと思います。国民連合から首相が出るかもしれません」と述べ、国民連合などの極右勢力が議会の多数派を握る可能性もあると指摘しました。

フランスの国民議会選挙について

フランスの議会下院にあたる国民議会は定数が577議席ですべてが小選挙区となっていて、選挙は、場合によって2回にわたって投票が行われる仕組みになっています。

1回目の投票では、過半数を得票し、かつ有権者の4分の1以上の票を獲得した候補者が当選します。

1回目の投票で、当選した候補者がいない場合は1週間後に決選投票が行われます。

決選投票では、1回目の投票の上位2人と、1回目の投票で有権者の12.5%以上の票を獲得した候補者が進み、最も多くの票を獲得した候補者が当選することになります。

前回・2022年の選挙では1回目の投票で当選した候補者は5人だけで99%は決選投票で決まっています。

そして前回の決選投票での全体の得票率をみるとマクロン大統領の与党連合や、左派連合などは1回目の投票に比べて上がったのに対し、極右政党の「国民連合」は1回目の投票に比べやや下げています。

この決選投票では、「国民連合」よりそれ以外の政党の候補者にやや有利だった傾向がうかがえます。

現在の国民議会では、マクロン大統領の与党会派が250議席で過半数の289議席に届かず少数与党になっています。

また「国民連合」は88議席となっています。

専門家“大統領会派に有利に働く可能性に期待し解散総選挙に”

フランスのマクロン大統領が、ヨーロッパ議会選挙の結果を受けてフランスの議会下院を解散すると発表したことについて、ヨーロッパの政治や経済に詳しい第一生命経済研究所の田中理首席エコノミストは「議会下院の選挙で使われている『決選投票制』は大統領会派に有利に働く可能性があることに期待して、解散総選挙にうって出た」と分析しています。

ヨーロッパ議会選挙で、フランスでは極右政党の「国民連合」が大勝する見通しになったことについて「ヨーロッパ各国では移民の流入増加に対する国民の不満や、エネルギー価格の高騰による生活困窮が背景にある。加えてフランスでは極右政党が、ヨーロッパ議会選挙をマクロン大統領に対する信任投票という形で位置づけて国内政局を争点化することに成功した」と述べました。

そのうえで、マクロン大統領が議会下院を解散し、選挙を行うと明らかにしたことについて「2年前の議会下院の選挙では与党連合が過半数を失って厳しい議会運営をこれまで強いられてきた。ヨーロッパ議会選挙の敗北で政権に対する風当たりはさらに厳しくなることが予想され、秋の予算審議など、重要な法案の審議では、行き詰まることが目に見えている。『決選投票制』は大統領会派に有利に働く可能性があり、極右首相の誕生を恐れる有権者が最後は大統領支持に回ることに期待して、解散総選挙にうって出た」と述べ、解散に踏み切ったねらいを分析しました。

そのうえで「ヨーロッパ議会選挙の結果を無視した場合、マクロン大統領が国民の声に耳を傾けずに政権運営を続けようとしていると国民の目に映る可能性があり、耳を傾けているというアピールにつながることを期待しているのではないか」と述べ、このタイミングで選挙をする理由を述べました。

一方で、勝算については「極右政党はかつて主張していたEUの通貨『ユーロ』からの離脱のような極端な政策を封印してフランス国民の間で受け入れられつつある。極右政権誕生を阻止できるかは疑問だ」としたうえで、「追い風は間違いなく極右政党に吹いている。解散は非常に賭けに近い」と指摘しました。

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