【北京=石井宏樹】中国国家統計局が16日発表した2024年1~3月期国内総生産(GDP)は、物価の影響を除いた実質で前年同期比5.3%増だった。不動産業の低迷が続く一方、製造業やサービス業が好調で、中国政府が今年の目標に掲げる「5%前後」を上回った。

◆目標の「5%」クリアに製造業が貢献

 工業生産は6.1%増で、特にハイテク製造業は7.5%増と伸び幅が大きかった。製品で見ると、充電スタンドや3Dプリンター、電子部品が4割増と急増した。サービス業は5.0%増で、データ通信やソフトウエアなどが13.7%増、好調だった春節(旧正月)消費を受けて宿泊や飲食業が7.3%増だった。  工場やマンションなどの固定資産投資は4.5%増。インフラ投資が6.5%増、製造業投資は9.9%増と全体をけん引した。  一方、不動産開発投資は9.5%減で、前年同期の5.8%減から下げ幅を拡大。開発資金は26.0%減と一段と悪化しており、不動産不況の出口は見えていない。固定資産投資全体は伸びを見せたが、民間投資は0.5%増にとどまったほか、外国企業による投資は10.4%減だった。  1~3月の消費者物価指数(CPI)は食品の下落を受けて横ばいで、デフレへの懸念が続いている。   ◇ ◇

◆「習近平スローガン」の曖昧さ

 不動産不況により景気低迷が続く中国で国内総生産(GDP)が目標を超える伸びとなった背景には、ハイテク製造業などの成長がある。習近平(しゅうきんぺい)国家主席は、経済スローガンとして「新質生産力」(新しい質の生産力)を提唱。地方政府や企業も習氏に追随するが、スローガンが示す方向性は曖昧で、中国製造業が抱える根本的な課題を解決できるかは不透明だ。

中国・安徽省合肥市で3月27日、安徽叉車集団が製造した自動運転車のデモ作業(石井宏樹撮影)

 中国が成長分野の柱に据える電池産業の大手「国軒高科(こっけんこうか)」が3月末、安徽省合肥市に新設した工場を海外メディアに公開した。「新質生産力」をテーマに政府が組んだ取材ツアーで、同省の太陽光パネルや電気自動車(EV)をアピールした。

◆電池工場を自動化、作業車も電動化

 電池は市内で生産されるEV向けで、3つの生産ラインで年間28ギガワット時(EV約40万台相当)のリチウム電池を製造できる。全長400メートルを超えるラインでは電極の塗布、電解液の注入が一貫して行われるが、作業員の姿はほとんど見られない。工場幹部は「95%の工程を自動化した」と強調。売り上げの10%を研究開発に投資し、7000人の研究者が材料から研究して電池性能を上げてきた。

中国・安徽省合肥市で3月27日、安徽叉車集団の自動化工場を取材する海外の記者(石井宏樹撮影)

 国有企業の安徽叉車(あんきさしゃ)集団では電気や水素で動くフォークリフトや自動運転作業車が紹介された。幹部は「電動作業車の販売比率は57%に達した。発展の余地はまだある」と力を込めた。

◆「中身を理解する人は多くない」

 習氏は昨年9月、黒竜江省の視察で「科学技術やイノベーション、資源を統合して戦略的新興産業と未来産業の発展を導き、『新質生産力』の形成を加速する」と提唱。16日の会見でも国家統計局の盛来運(せいらいうん)副局長が「関連政策の効果は出ており、引き続き『新質生産力』を育成する」と強調した。具体的には水素エネルギーや創薬、新素材、バイオ製造や量子技術などが重点項目とされる。ハイテク振興を通して、不動産不況に苦しむ現状を打開する狙いとみられる。  安徽省ではスローガンの実現に向け、売上高5億元(100億円)以上で研究機関を持たない製造業をゼロにする目標を掲げる。習氏自らが提唱したこともあり、国営メディアで社説や専門家の解説として盛んに報じられる一方、過去の政策との違いが不明確で「トップが言うから飛び付いているが、中身を理解する人は多くない」(中国人記者)との冷静な声も漏れる。

◆欧米は「デフレ輸出」を警戒

 中国政府が生産力強化を図る一方、欧米では「デフレ輸出」への懸念が高まっている。中国で過剰生産された安価な製品が流れ込み、国内の雇用などに打撃を与えるとみられている。取材ツアーでも、欧米の記者の関心は中国の過剰生産問題に注がれていた。

中国・安徽省合肥市の国軒高科の新工場で3月29日、メディアに公開されたEV向けの最新電池パック(石井宏樹撮影)

 安徽省発展改革委員会の張雲(ちょううん)副主任は「問題を重視している」としながらも「古い生産能力を淘汰(とうた)することでリスクを回避できる」と楽観的だ。一方、今月上旬に訪中したイエレン米財務長官が、中国政府にEVの過剰生産を警告するなど見解の隔たりは大きい。  東京財団政策研究所の柯隆(かりゅう)主席研究員は「最大の課題である需給均衡に手を付けないまま、内容のないスローガンに頼っていては経済の回復にはつながらない」と厳しい目を向ける。 

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