人を乗せて空を移動する「空飛ぶクルマ」の国際競争が激しさを増している。各国メーカーが来年以降の商用化を見据える中、航空大国の米国はこの分野を国家戦略と位置づける。日本勢はスカイドライブ(愛知県豊田市)が現地に拠点を立ち上げ、トヨタ自動車もアメリカ企業と協力する。(ワシントン・鈴木龍司)

 空飛ぶクルマ 「アーバン・エア・モビリティー」や「エア・タクシー」などとも呼ばれる。明確な定義はないが、現行法上は航空機に分類され、電動で垂直に離着陸する特徴を持つ。ヘリコプターのような回転翼や、飛行機と同様の固定翼で飛ぶタイプなどがある。自動運転や道路を走行する機能の搭載を目指すメーカーも多い。交通渋滞の解消などが期待され、当面は限定的なエリアでの飛行が想定される。

スカイドライブが開発中の3人乗りの機体のイメージ(同社提供)

◆日本だけを見ていては革命をリードできない

 スカイドライブ社は来春開幕の大阪・関西万博での飛行を目指し、3人乗りの機体を開発。万博来場者を乗せて運ぶ「商用運航」は断念したものの、垂直に離陸して最高時速100キロで近距離を飛行する「空飛ぶタクシー」などを想定し、2026年にも国内外で量産に必要な認証の取得を目指す。  すでに国内外から250機以上の事前予約があり、提携先のスズキと生産体制を整える一方、昨年、アメリカ南部サウスカロライナ州に子会社を設立した。海外事業開発を担う河内利浩さんは「日本だけを見ていては、モビリティー革命をリードできない。まだ世の中にない乗り物の事業を開発する意味で、米国を重視している」と強調。チャーター機の運航2社から受注を取り付けた。  商用化には法律やインフラの整備、社会の合意形成が不可欠だ。米政府の動きは速く、22年に法律を策定し、今夏にも国家戦略を公表する。各州は具体的な課題を解消する官民の協議会を早くから組織。スカイ社も加わり、河内さんは「先進地」と位置付ける。

◆トヨタは「空のテスラ」に出資

スカイドライブが開発中の3人乗りの機体のイメージ(同社提供)

 機体開発ではカリフォルニア州シリコンバレーを中心に有望な新興企業が育つ。代表格で「空のテスラ」と呼ばれるジョビー・アビエーションには、将来性を高く評価するトヨタが出資。アーチャー・アビエーションとともに商用運航の認可を取得済みで、来年にも「空飛ぶタクシー」などのサービスを始める計画だ。  ワシントン国際問題研究所研究員の釣(つり)慎一朗氏は米国の現状を「長期的な人材育成を含めて国策で取り組んでいる」と評価し「防衛力強化の側面も色濃い」と指摘。兵器に転用される無人のドローンで中国に先行を許しただけに「同じ轍(てつ)は踏まないという意識が強い」と分析する。

◆2040年に市場規模1兆ドル超えを試算

 次世代産業と位置付ける日本は2022年に米国当局との協力声明に署名。制度設計の情報を交換し、共同歩調を取りたい考えだ。  アメリカ金融大手モルガン・スタンレーは、空飛ぶクルマの市場規模が2040年に1兆ドル(約156兆円)、2050年に9兆ドル(約1404兆円)に達すると予測。釣氏は「米国も未経験で手探りな部分がある。日本は技術的に追いつけないわけではない」と語り、人材の育成を最大の課題に挙げた。 

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