北朝鮮の初代最高指導者・金日成氏の功績をたたえる石碑に、何者かが墨汁のようなものを振りかける様子が撮影された。動画は海外を拠点に活動する 「新朝鮮」という団体に送られSNSで拡散したという。
「新朝鮮」とはどのような組織で、いま北朝鮮に何が起きているのか。北朝鮮に詳しい龍谷大学の李相哲教授に聞いた。
「協力者がいないとできない」
ーー「新朝鮮」はどんな団体?
実態ははっきりしませんが、彼らによると北朝鮮内部にも組織網があり、さらに北朝鮮の幹部たちも組織に関与していると言っています。
もう1つ特徴的なのは、韓国と連携して金正恩政権を倒すのではなくて、自分たちで北朝鮮を改革開放に導くという目標を持っているようです。
ーー金日成氏を称える石碑を汚す映像をどう見る?
このような映像は見たことがないです。2019年に「自由朝鮮」という反北朝鮮組織が、スペインの北朝鮮大使館を襲撃して金日成と金正日の肖像画を叩きつける映像は見たことがありますが、北朝鮮国内で記念物に墨をかけたり破壊する映像は初めてだと思います。
北朝鮮では革命史跡地や金一族と関係のある記念物は常に誰かが見張っています。その中で大胆な行動に出て、映像まで撮影しているということは協力者がいないとできないことです。周辺の状況を確認し、実行役とは別に撮影者もいるとなると2、3人での犯行と思われます。さらに映像が流出したことはショッキングで深刻な事態です。
記念物の破壊は“即処刑”
動画を拡散した「新朝鮮」のホームページには、『今や世間知らずの娘まで前面に出す金正恩の振る舞いを見て、全人民は怒りに震えている。金家世襲の命を絶つために、喜んで命を捧げることを決意した』などといった声明文も添えられている。
こうした反体制組織の動きについて李教授は、「当局は隠し通すことができない」と指摘する。
ーー動画は国際的に注目されている?
韓国の一般紙やテレビは最初はあまり取り上げていませんでした。しかし事態が普通ではないということに少しずつ気づき始めて、13日頃から注目され始めています。
ーー「新朝鮮」台頭の背景に北朝鮮内部の変化は?
北朝鮮内部に反体制組織があったということは北朝鮮の内部資料から確認できます。中学校の教員が党を作って、党規約まで決めて組織員を入れようとする事件があったことを当局が暴露しています。
昔だったら反体制運動について当局が明らかにすることはありませんでしたが、今は隠し通すことができない状況です。事件があったことを認め、人民教育に使って警鐘を鳴らしています。
ーー金正恩体制も「新朝鮮」を把握している?
もちろんです。北朝鮮で史跡碑や金一族と関係のある記念物を破壊したり、汚すことは即処刑になってもおかしくない深刻な事件です。今は大規模な捜査網を張り巡らせて摘発に乗り出しているところだと思います。
統制が緩む北朝鮮
反“金一族”の動きは北朝鮮内外で高まりを見せていくことになるのか。李教授は、すでに外交官や貿易担当者の中にも「金体制はおかしい」と思い、行動を起こす必要があると考える人が増えていると話す。
ーー今後の「新朝鮮」の動きをどう見る?
「新朝鮮」の規模は今のところまだ把握できていません。数人の組織かもしれないし、彼らが言っているように北朝鮮内部とつながっている地下組織の可能性もあります。ただ北朝鮮をめぐる反体制運動は広がりを見せていることは間違いありません。
北朝鮮国内で反体制組織が作られたということは北朝鮮の内部文書から確認できるし、今回「新朝鮮」も登場しました。さらに最近は海外に派遣されている労働者が反乱を起こしたというニュースも時々耳にします。
統制が少し緩くなったというか、昔のようにはいかない状況だと思います。この勢いが続けば反体制の動きが広がりを見せることは自然な成り行きだと思います。
ーー国連安保理の場で北朝鮮から亡命した人が金体制を批判したが?
海外に派遣されている外交官や貿易担当者の中にも「金体制はおかしい」と思っている人が増えています。それに加えて脱北者団体もこのまま放置したら金体制がずっと続いてしまうため、行動を起こす必要があると考えています。
北朝鮮は最近、「反動思想文化排撃法」や「青年教養保障法」など若者の行動や思想を縛り付ける「3大悪法」を作りましたが、法律を作って厳しく罰しないと統制が効かなくなっています。金正恩体制は今、少し焦りを感じている状況だと思います。
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