【ソウル=木下大資】ロシアのプーチン大統領は19日、北朝鮮の首都平壌(ピョンヤン)を訪れ、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と会談した。両首脳は経済、安全保障など幅広い協力関係を強化する「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名。正恩氏は会談後の記者会見で、ロ朝関係が「同盟関係の水準に上がった」と宣言した。  ただ正恩氏は、条約は「平和友好的で防衛的なものだ」とも主張した。

◆武力攻撃を受けた際の「軍事援助」復活?

北朝鮮国旗

 プーチン氏は会見で、条約には「一方が侵略を受けた場合、相互に支援を提供する」との条項が盛り込まれたと説明。韓国の聯合ニュースは、北朝鮮が旧ソ連と1961年に結んだ友好協力相互援助条約に規定された、一方が武力攻撃を受ければ他方が全ての手段で軍事援助する「自動軍事介入条項」の復活に近いと解釈されると伝えた。  プーチン氏は北朝鮮への軍事技術協力も「排除しない」と言及。「米国主導の国連安全保障理事会の対北制裁は見直す必要がある」とも主張した。  会談冒頭、正恩氏はロ朝関係が「前世紀のソ連時代とは比べものにならない最高潮期を迎えている」と強調。プーチン氏はウクライナ侵攻を巡る北朝鮮の支持を「高く評価している」と改めて謝意を示し、「今後モスクワで会えることを期待する」と呼びかけた。  プーチン氏は当初18日の夜到着する計画だったが、予定より遅れて19日午前2時ごろ平壌郊外の順安(スナン)国際空港に到着した。正恩氏は空港で直接出迎え、プーチン氏が2月に贈ったロシア製の高級車「アウルス」に同乗して宿泊先の錦繡山(クムスサン)迎賓館まで案内した。 ◇  ◇

◆極東アジア情勢にもたらす影響は

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記は19日、ロシアのプーチン大統領との会談で、両国関係が「同盟の水準に引き上げられた」と表現するなど、軍事面での蜜月ぶりを改めて強調した。朝鮮半島有事にロシアが介入する可能性を示唆し、日韓や欧米をけん制する狙いがあるとみられる。関係国の思惑が交錯する中、極東アジアの安全保障情勢はさらに厳しさを増した。

プーチン氏(資料写真)

 「現在の国際情勢にふさわしい偉大な条約を締結したことに満足している」。包括的戦略パートナーシップ条約に署名した後の記者会見で正恩氏がこう語ると、プーチン氏も「政治や貿易、安全保障などの分野も含まれている画期的な文書だ」と応じた。  両氏の念頭にあるのは、旧ソ連と北朝鮮が1961年に結んだ「友好協力相互援助条約」だ。有事の際に双方に軍事介入を義務付ける条項が含まれ、軍事同盟的な性格を持つ。  正恩氏には、後ろ盾としてロシアから最大限の協力を引き出しつつ、日米韓に対し、朝鮮半島で大規模紛争が発生した場合に巻き込まれかねない懸念を印象づける意図がありそうだ。

◆「中ロ朝」vs「日米韓」の構図を描く正恩氏

 1961年の条約が結ばれた背景には、冷戦と南北対立といった現在と似た構図があった。60年に日本と米国が新たな安全保障条約を結び、翌年には韓国で軍事政権が誕生した。  正恩氏は昨年9月の最高人民会議で「覇権と膨張主義的に奔走する帝国主義勢力によって『新冷戦』が現実化され、主権国家の存立が脅かされている」と指摘。「日米韓と中ロ朝」の対決構図に持ち込みたい意図をうかがわせた。国連安全保障理事会の常任理事国である中ロを取り込み、制裁を緩和させる狙いがある。  韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)政権は、北朝鮮に「力対力」で対抗する強硬姿勢を貫く。ウクライナ侵攻の長期化で疲弊するロシアが今回、兵器などを支援する北朝鮮の思惑に応じた形となった。

◆訪朝したプーチン氏「日帰り」の意味合い

ロシア・クレムリン

 ただ、北朝鮮と中ロが一枚岩とは言い切れない。プーチン氏は平壌到着が遅れ、実質的に「日帰り訪問」(朝鮮日報)となった。記者会見では「同盟」の表現を使わず、欧米諸国による経済制裁の批判に時間を割いた。今月5日には、ウクライナに兵器提供をしない韓国を評価するなど、南北間のバランスに腐心している節もある。  地域の軍事緊張や国際制裁のリスクを避けたい中国の外務省副報道局長も、19日の記者会見で「中国は自分のやり方で役割を果たす」と述べ、ロ朝の関係強化から一線を引いた。  韓国はこうした現状も踏まえ、18日に中国と外交・防衛当局の次官級協議を実施した。中ロ朝の3カ国に微妙な温度差がある中、日米韓が「中ロ朝を引き離すことに力を入れる必要がある」(韓国有識者)との声も上がっている。(ソウル・上野実輝彦) 

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