中国が再生可能エネルギーで太陽光に次いで発電量が多い風力発電の分野で世界を席巻している。政府の支援をバックに発電機メーカーは急速に成長。一方、需要を上回る生産能力を抱えて収益を圧迫しており、そのはけ口を海外に求める構図は、電気自動車(EV)の過剰生産問題と重なる。(石井宏樹、広東省陽江市で)

100メートルを超える巨大な風力発電機のブレードを検査する広東省陽江市の国家機関検査場=石井宏樹撮影

◆「世界最大の検査場もブレードも全て中国に」

 広東省の沿岸部に位置する陽江市。風力発電機の認証検査を手掛ける機関「国家海上風力発電設備品質検査測定センター」の検査場では、巨大なブレードを上下にゆらして強度確認する検査を行っていた。センターは世界最長の150メートルのブレードを検査できる最新設備を備える。  周辺には中国の風力発電機メーカーの工場が林立するほか、大型貨物船が出入りできる港湾も備え、世界のメーカーから検査のために風力発電機の部品が持ち込まれるという。  検査場の責任者は「世界最大の検査場もブレードも全て中国にある。自主開発の設備で検査の精度と効率を高め、以前は世界トップの欧米メーカーもここで検査を受けている」と胸を張り、中国の風力発電事業の急成長ぶりを印象づけた。

◆風力発電、世界トップ5の4社が中国企業

広東省陽江市の沖合にある海上風力発電所=陽江市政府提供

 陽江市の沖合では、巨大な海上風力発電所の建設も進む。現在の海上での発電容量は500万キロワットで、世界の6.5%を占めるという。さらに500万キロワット分を建設中で、将来的には計4000万キロワットの規模まで拡大する計画だ。中国政府は2030年までに非石油エネルギーの比率を25%前後に高める目標を掲げ、太陽光と風力発電の増強に注力する。  国内の巨大プロジェクトの需要や補助金で中国の風力発電機メーカーは急成長を遂げた。調査会社ブルームバーグ・ニューエナジー・ファイナンスによると、23年には、世界の上位5社のうち、4社を中国が占めた。習近平(しゅうきんぺい)国家主席も2月末、「わが国の新エネルギー技術や設備製造のレベルは世界をリードしている」と述べ、さらなる加速を後押しする。

◆急成長の反動…利益率が大幅下落

 一方、急成長の反動も表れつつある。23年に中国で新増設された風力発電機の容量は過去最高の77ギガワットで世界の65%を占めた。同時にメーカーの生産能力は100ギガワット近くまで拡大し、最近の風力発電プロジェクトで落札価格の下落が目立ち始めている。  20年の入札募集価格は1キロワット当たり3700元(8万円)だったが、23年後半は半分以下の1500元(3万2千円)まで下がった。実際の落札では採算ラインの1400元を下回るケースも2割に上り、メーカーの利益率が大幅に下がっている。

◆「低コスト」売りに輸出 EUは警戒強める

 中国メーカーは苦境を打開するため、海外輸出に活路を見いだそうとしている。欧米の急激なインフレの影響もあり、中国の風力発電機は欧米の競争相手より2割安く製造できるという。ある中国メーカー幹部は中国メディアの取材に「国際市場は利益率が国内より高く、欧米メーカーはコスト面で中国と競争にならない」と語り、虎視眈々(たんたん)と海外市場の開拓を狙う。  欧米は、中国の安売り攻勢に対し、エネルギー安全保障や自国産業保護の観点から警戒感を強めている。欧州連合(EU)は「中国は補助金で欧州市場をゆがめている」として、中国メーカーに対する補助金調査を開始。EVと同じように制裁関税で、中国からの「デフレ輸出」を防ごうとしている。  中国内で過剰生産の認識は、業界レベルでは広がっているものの、対外的には「過剰生産問題は存在しない」(習氏)と強硬姿勢を貫き、輸出先の懸念に向き合う姿勢を見せていない。風力発電は貿易戦争の新たな火種になる危険性をはらんでいる。 

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