◆4年ぶりの直接対決
バイデン大統領
両氏が直接対決するのは前回2020年の大統領選以来4年ぶり。バイデン氏は、声がかすれたり、言葉につまったりする場面が目立ち、トランプ陣営は「歴史的勝利」と主張した。 討論会では経済対策について、バイデン氏が「私が大統領になったとき、失業率は15%まで上昇するなど経済はひどい状況だった。私たちは多くの新規雇用を創出し、事態を元に戻した」と主張。トランプ氏は「バイデン氏が創出した雇用は不法移民のための仕事や新型コロナ禍から立ち直ったものだけだ。彼のお粗末な仕事で、インフレが国を滅ぼそうとしている」と批判した。 さらにバイデン氏は、在任中に連邦最高裁を保守化させたトランプ氏が大統領に返り咲けば「全米で中絶の権利が奪われるだろう」と非難した。トランプ氏はウクライナ情勢について、自らが大統領ならばロシアのウクライナ侵攻は起きなかったなどと主張した。◆観客入れずテレビで90分間
トランプ氏
アメリカ大統領選の討論会は、超党派の実行委員会が聴衆を入れて実施するのが通例だったが、バイデン氏の意向で6月と9月にテレビ局主催の討論会を実施することになり、トランプ氏も受け入れた。今回はCNNテレビの主催で、観客を入れずに90分間にわたって実施。前回大統領選の第1回討論会では両氏が相手の発言を遮りながら罵倒し合う展開となったため、相手の発言中はマイクの音が切られる措置がとられた。 ◇ ◇◆バイデン氏「民主主義の感覚欠く」、トランプ氏「彼の息子は重罪人」
アメリカ大統領候補による27日のテレビ討論会で、民主党のバイデン大統領(81)と共和党のトランプ前大統領(78)は、主要争点を巡り、実績アピールと相手の批判にそれぞれ時間を費やした。(ワシントン・鈴木龍司) 「今の国境は史上最悪だ」。不法入国者の即時強制送還の復活を掲げるトランプ氏は、バイデン政権の移民政策によって国境からテロリストが流入し、移民による殺人などが増加しているとの持論を展開。「この国は破壊されつつある」と危機感をあおった。 バイデン氏は「誇張だ。うそをついている」と応戦。4日に署名した国境管理を厳格化する大統領令について「不法越境者が4割減った」と効果を強調した。◆コロナ対策やウクライナ侵攻を巡って…
経済対策ではバイデン氏がトランプ前政権の新型コロナ対策を批判し、「経済が混乱した。億万長者の減税で、財政赤字を膨らませた」と一蹴。財政再建と失業率改善の実績を訴えた。トランプ氏は「(大統領在任中に)減税で雇用を創出し、税収を確保した。歴史上、経済がこれほどうまくいったことはない」と自賛した。バイデン大統領=2023年6月8日、ホワイトハウスで
ロシアによるウクライナ侵攻やガザ情勢への対応を巡り、トランプ氏は「彼は何もしなかった」とバイデン氏の指導力不足を指摘。ウクライナへの巨額の軍事支援を批判し、「尊敬される大統領ならロシアのプーチン大統領は侵攻しなかった。私なら(大統領選で勝てば)大統領就任前に戦争に決着をつける」と自信を示した。 バイデン氏は「プーチン氏は戦争犯罪者だ。立ち止まると思っているのか」と反発。北大西洋条約機構(NATO)の意義を疑問視するトランプ氏に対し「彼は離脱するつもりだ。これほど愚かな発言を聞いたことがない」と批判した。 バイデン氏は、前回の大統領選後に議会襲撃事件を誘発したトランプ氏を「民主主義の感覚を欠く」と非難。「彼があおった。(暴徒を)愛国者と考えている」と追及した。不倫口止め料の不正会計処理事件で有罪評決を受けたトランプ氏を「重罪人」と呼んだ。議事堂で大統領選の結果に抗議するトランプ氏支持者ら=2021年1月6日、ワシントンで(岩田仲弘撮影)
一方のトランプ氏は有罪評決に対して「政敵の追い落としだ」と反発。バイデン氏の次男が虚偽の申告で銃を不正に購入したとして有罪評決を受けたことを話題にして「彼の息子は重罪犯だ」と反撃した。司会者から「今回は選挙結果を受け入れるか」と問われ、「公正で法に基づく選挙ならば」と明言しなかった。 ◇ ◇◆トランプ氏の方が好印象か 花木亨・南山大教授寄稿
いろいろな意味で前例のない討論会だったが、討論の開始前に候補者たちが握手をせず、目も合わせないというのも、おそらく史上初めてのことだったろう。 前回2020年の大統領選の討論会では、トランプ氏がバイデン氏の発言を繰り返し遮り、まともな討論が成立しないという残念な結果になった。今回の討論会では、新たに設定されたルールの効果もあり、そのようなことはなかった。 これはある意味、トランプ氏に有利に働いた可能性がある。有権者の中には、今回のトランプ氏は前ほど悪くなかったと感じた人たちもいたかもしれない。 2人とも高齢であるため、大統領職をこなす活力が十分に備わっているのか、ということが一つの注目点だった。この点、バイデン氏よりもトランプ氏のほうがよい印象を視聴者に与えたかもしれない。バイデン氏は動きがやや緩慢で、声もかすれていた。南山大・花木亨教授
1週間ほど大統領の山荘で合宿して討論会に備えてきただけあり、バイデン氏は司会者の質問に対して、具体的な事実を提示しながら答えていた。 これに対して、トランプ氏は虚実をまぜながら、ときには司会者の質問を無視して、自説を展開していた。事実に反するトランプ氏の発言に対して、バイデン氏は繰り返し訂正を試みていたが、それが十分に効果的であったかどうかについては、やや疑問が残る。 リベラルなメディアとされるCNNテレビが用意した質問にとらわれることなく、言いたいことを自由に発言するトランプ氏に力強さを感じた有権者がいた可能性は否定できない。 全体として、バイデン氏がトランプ氏の発言の間違いを訂正することに力を注ぐ一方で、トランプ氏がバイデン氏を史上最悪の大統領とみなして非難し続ける展開だったように思う。 米国の有権者の多くは、候補者たちが互いの欠点を非難しあう姿よりも、自分が信じる政策や理念の素晴らしさを希望とともに語る姿を本当は見たかったのではないか。ただ、今の米国の政治状況がそれを許さないのかもしれない。花木亨(はなき・とおる) 名古屋大経済学部卒。米オハイオ大大学院コミュニケーション研究科修了、博士。専門はコミュニケーション研究。著書に「大統領の演説と現代アメリカ社会」(大学教育出版)など。2024年度から南山大外国語学部長。
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