6月16日早朝、黄雪琴さんへの判決に抗議し、東京タワーを背に掲げられた横断幕=関係者提供
東京タワーを背に広げられた横断幕には、中国語と日本語で「黄雪琴(こう・せつきん)が自由にならない限り、誰も自由ではない」とある。小雨が降っていた6月16日の早朝だ。日本を含む世界各国の都市でこの日、同じスローガンを掲げた抗議活動が行われていた。 黄雪琴さん(35)は、中国の女性活動家でフリーの記者でもある。広東省広州市の中級人民法院(地裁)は2日前の6月14日、黄さんに国家政権転覆扇動罪で懲役5年を言い渡した。労働者の権利保護に取り組み、黄さんと同時に拘束された王建兵(おう・けんぺい)さんは懲役3年6月だった。黄さんは上訴の方針を示している。抗議活動は2人の減刑などを求めたものだ。在日中国人の女性は「世界中から声を上げ、中国政府の権威的な統治にフェミニズムが屈していないことを示したい」と話した。 中国では、黄さんの報道によって性暴力被害を訴える「#MeToo運動」が幕をあけた。2018年1月、米国在住の女性が北京航空航天大の博士課程在学中に教授から受けた被害について記事にまとめ、ネット上で発表した。この報道を皮切りに、中国でも性被害の告発が相次いだ。 とはいえ、2021年9月に拘束された黄さんらの起訴状は#MeToo運動には直接触れていない。起訴状によると、黄さんは中国政府や中国の政治制度を批判する文章を発表したほか、王さんの自宅で定期的に集会を開いたり、海外の交流サイト(SNS)で「非暴力運動」に関する養成講座に参加したりして、政府への不満をあおった。さらにこの講座に他人を紹介して参加させたとされる。 問題視されたのは、「紹介して参加させた」ことや、王さん宅での集会にさまざまな分野の社会運動の関係者を引き入れたこととみられる。中国当局は、政府や社会に対して不満を持つ人々が横につながって組織化され、影響力を持つことを恐れる。共産党政権の安定に影響することを警戒しているためであり、#MeToo運動やフェミニズムもそうした警戒の対象となってきた。2人の判決は中国当局の強い警戒感を象徴する。 黄さんの判決の全文は公表されておらず、中国国内ではほとんど報道されていない。表立った抗議は海外に限られるが、海外での抗議の参加者らも身元が判明することを恐れ、SNSなどの画像に顔が映らないよう注意を払う。中国当局の監視は海外にも及んでおり、当局が郷里の家族や親族らに圧力を加える事態などを避けるためだ。 日本でも街頭などで中国に関連する抗議活動を目にすることが増えた。特に6月は天安門事件から35年、香港の反政府デモから5年などの節目があり、各地で抗議活動などが行われた。やはり少なくない参加者がマスクなどで顔を隠す。ある在日中国人の女性は「自由の国にきても、私たちは自由になれるわけではない」と話した。(政治部)
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