混乱期の政治には、「賭け」も「派手さ」もいらない。そう感じさせる選挙だった。
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英国の総選挙はもともと、秋の実施が濃厚と言われてきた。14年にわたって政権を担ってきた保守党の支持率は低迷が続き、早く実施するメリットは少ないと考えられていた。だが、スナク氏は5月22日、サプライズで解散総選挙を発表した。
「賭け」と騒がれた。勝負する姿勢を見せ、主導権を握り、選挙戦を優位に進めようとしたとの識者の分析が聞かれた。
だが、有権者が好意的にとらえることはなかった。「保守党政権はもうたくさん」「政治への信頼がない」。そんな声を取材で多く聞いた。
ブレグジット(英国の欧州連合離脱)の国民投票の結果を受け、キャメロン首相が2016年に辞任してから8年。その後の首相は4人を数え、英国政治の代名詞たる「安定性」は見る影もなくなっていた。
食費も、家賃も、光熱費も高くなった。公立の医療機関はかつてないほど予約が取れない。足元の暮らしが脅かされるなか、エリート政治家に「威勢の良さ」を見せられても、選挙戦でどれだけ大胆な公約を突きつけられても、「もう一度賭けてみるか」とはなりようがなかった。
選挙期間中には、複数の保守党議員らが事前に水面下で情報を得つつ、それを隠して実際の選挙日に金銭を賭けていた疑惑まで浮上した。長期政権末期の緩みが噴出した形で、有権者の怒りはさらに高まった。
「最後の笛が鳴るまで、勝負は終わらない」。スナク氏は投票日前日、サッカーの欧州選手権の決勝トーナメントで劇的な逆転勝利を挙げたイングランド代表にならい、そう訴えた。
だが、今回の選挙は、エースストライカーも優秀なゴールキーパーもいないなか、応援する観客も極めて少ないとわかりきっている試合だった。早々に、「試合終了」の笛は鳴った。
圧勝した労働党も安泰ではない。調査会社ユーガブによると、有権者が労働党を支持する理由は「保守党を政権からおろしたい」が48%。「政策に同意する」はわずか5%だった。労働党にとってはこれからが本戦。少なくとも、いちかばちかの派手なプレーは必要ない。彼らにとっての始まりの笛はまだ、鳴ったばかりなのだから。(ロンドン支局長・藤原学思)
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