40人以上の死亡が伝えられた、ロシア軍によるウクライナ各地への大規模ミサイル攻撃。首都キーウ(キエフ)の小児病院などでの被害に、国際社会の批判が高まる中、日本でも緊急支援の呼びかけが始まった。危ぶまれる今後のロシアの戦略について専門家に聞いた。(曽田晋太郎)

◆ロシアは「ウクライナの防空ミサイル落下が原因」と主張

ウクライナのゼレンスキー大統領(資料写真)

 8日の攻撃では負傷者も190人以上に上った。ロイター通信などによると、キーウ市長は2022年2月のロシアのウクライナ侵攻以来、「最も大規模な攻撃の一つ」と談話。国連のグテレス事務総長は「民間人への直接攻撃は国際法違反で、容認できない」と非難した。一方で、ロシア側は意図的な民間施設への攻撃を否定し、ウクライナの防空ミサイル落下によるものだと主張した。  「絶望して涙が出た」と声を落としたのは、在日ウクライナ人らでつくるNPO法人「日本ウクライナ友好協会KRAIANY(クラヤヌィ)」(東京)のイェブトゥシュク・イーゴル副理事長。「被害を受けたのは、ウクライナ最大の小児病院。ロシアの全面侵攻を受けて多くの子どもたちが治療を受け、一生懸命頑張って生きようとしている。そんな子どもたちをわざわざ狙うのは衝撃的で理解できない」  同協会では攻撃直後から支援を呼びかけ、既に100万円以上が集まっている。今後、小児病院の関係者と直接やりとりし、寄付金を必要な支援に充てる方針で8月には協会メンバーが現地を訪れることも計画している。イーゴル氏は「侵攻から2年がたっても戦闘は終わらず、むしろひどくなっている。一日も早くロシアには撤退してほしい」と願った。

◆「新たな戦術」か「余裕の表れ」か

ロシアのプーチン大統領(資料写真)

 今回、小児病院に撃ち込まれたのは巡航ミサイル「Kh101」とみられる。米シンクタンクは、今回のミサイルが超低空を飛んでいたとの指摘から、ロシア軍がウクライナ軍の防空網の反応を困難にする新たな戦術を採用した可能性が高いと分析した。  ただ、軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこのミサイルはロシアが以前から多用しているとして「巡航ミサイルはレーダーを避けるために低高度が通常で、民間施設も以前から攻撃している」と戦術の変化に否定的だ。「速度は速くないが、命中精度が高いため、小児病院を狙ったのだろう」とみる。  さらに協力を深める中国の支援や自国の軍事産業がフル回転してミサイルなどの補給に余裕ができたことを挙げて、「ロシア軍が自分たちの士気を上げるため、防御は堅いが大きな被害が出るキーウを集中的に攻撃したのでは」と話した。

◆プーチン氏不在を狙ったロシア強硬派の独断?

モスクワの「赤の広場」で行われた軍事パレードにはウクライナ侵攻で戦った兵士らも参加した=2022年5月撮影

 他方、欧米とのチャンネルも持つインドのモディ首相がロシアを訪問したタイミングが関係したとの観測もある。筑波大の中村逸郎名誉教授(ロシア研究)は「プーチン大統領との首脳会談で停戦に向けた何らかの動きがあるのでは、と危機感を抱いたロシア軍の強硬派が、そうはさせまいと独断で残虐な攻撃を仕掛けたのではないか。強硬派がさらにギアを上げ、戦術核の使用も含めた激しい攻撃を仕掛けてくるかもしれない」と懸念する。  混迷を深める中、日本にできることは何か。中村氏は、ウクライナでは今、電力不足が深刻で、地雷の恐怖から外出できないなど、市民生活に大きな障害が起きているとして「発電機や地雷撤去の技術の支援など、市民が少しでも安心して暮らせる緊急的な支援が必要だ」と提案した。 

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