高齢不安でアメリカ大統領選からの撤退論が強まる民主党のバイデン大統領が「大失態」と酷評された6月の討論会後、初めて臨んだ記者会見。パフォーマンスは力強く、討論会から改善は見られたものの、身内の民主党内を完全に納得させるには至らず、NATO加盟国には「ポスト・バイデン」をにらんだ動きさえみられた。(ワシントン・鈴木龍司、浅井俊典)

◆「討論会よりはマシだけど、納得させるには不十分」

 「私は出馬の決意を固めているが、不安を取り除くことも重要だと思っている」。バイデン氏はおよそ1時間に及んだ会見で撤退を否定しつつ、動揺する党所属の議員や支持者への配慮をみせた。

バイデン大統領(2023年撮影)

 自身が再選後も職務を遂行できると納得させるための会見で、複数の言い間違えや言葉に詰まる場面があったものの、外交政策から国内問題に至るまで幅広い質問に精力的に答えた。  NATO首脳会議の成果を語った冒頭の8分以外はプロンプター(原稿映写機)を使わず自らの言葉で語った。記者団から相次ぐ去就に関する厳しい質問にも必死に答えたが、米メディアは「(討論会より)良くなったが、周囲を安心させるには不十分」などと断じた。

◆時間稼ぎにしかならない…民主党内が分裂

 一定のパフォーマンスを見せたことで、民主党内の撤退派の動きを縛るとの見方もあるが、それも一時的にすぎないとみられる。  ワシントン・ポスト紙コラムニストのカレン・タマルティ氏は「バイデン氏は時間を稼ぐことはできたかもしれないが、党内の議論を鎮められてはいない」と指摘。同紙によると、バイデン氏の選挙戦離脱を公然と主張する現職の党議員は20人に増え、分裂が収束する気配はない。  一方、共和党には、各種世論調査の支持率平均でトランプ前大統領がバイデン氏を数ポイント上回る中、バイデン氏の選挙戦継続を歓迎する動きも。ニューヨーク・タイムズ紙は「トランプ氏の側近はバイデン氏の会見に満足している。バイデン氏との対決なら地滑り的な勝利を予測しているからだ」と伝えた。

トランプ前大統領(2022年撮影)

 トランプ氏はバイデン氏がハリス副大統領を「トランプ副大統領」と言い間違えたことを交流サイト(SNS)で「よくやった、ジョー(バイデン氏)!」と皮肉った。

◆欧州の複数国の高官がトランプ氏の外交顧問と面会か

 バイデン氏が会見で「大成功だった」と誇ったNATO首脳会議でも、同氏の不安定な政治的立場を反映するかのように、トランプ氏の返り咲きに備えるような動きが相次いだ。  ウクライナのゼレンスキー大統領は会議の合間を縫って、10日に共和党のジョンソン下院議長と会談し、支援継続を求めた。在任中にNATOを軽視する発言が目立ったトランプ氏が当選した場合を想定した行動とみられている。  また、NATO加盟国でありながら親ロシア路線を取るハンガリーのオルバン首相がフロリダ州を訪れ、トランプ氏と会談。欧州の複数国の高官が期間中にトランプ氏の外交顧問と面会したと報じられるなど、国外からもバイデン氏の去就への不安が強まる。 

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