【ワシントン=浅井俊典】アメリカ東部ペンシルベニア州バトラーで13日午後6時15分(日本時間14日午前7時15分)ごろ、11月の大統領選に向けた選挙集会で演説をしていた共和党のトランプ前大統領(78)が銃撃された。トランプ氏は右耳などを負傷したが、命に別条はない。大統領警護隊(シークレットサービス)は容疑者を殺害。連邦捜査局(FBI)は、トランプ氏に対する暗殺未遂事件として捜査を始めた。

助けを受けて選挙集会のステージを降りるトランプ前大統領=13日、ペンシルベニア州バトラー(AP=共同)

◆アメリカ大統領選集会で聴衆3人死傷、SSが容疑者殺害

 容疑者の発砲により会場にいた聴衆の1人が死亡、2人が重傷を負った。  大統領選を4カ月後に控える中、選挙活動中の大統領経験者を狙った政治的暴力は、選挙戦に大きな影響を与える可能性がある。  FBIは14日、銃撃犯として同州在住のトーマス・クルックス容疑者(20)を特定した。会場外の高い建物から数発発砲し、付近からは殺傷能力の高いAR15型ライフルが押収された。CNNテレビは、容疑者が会場から120~150メートル離れた建物の屋根の上にいたと報じた。

◆右の耳から出血、拳振り上げるトランプ氏

 大統領警護隊の発表などによると、トランプ氏が屋外での選挙集会で演説を始めて6分ほど経過した後、複数回の発砲音がし、トランプ氏が右耳付近を手で抑えて倒れ込んだ。右耳から出血していたが、警護隊に抱えられながら立ち上がった際には、聴衆に向かって右手の拳を何度も振り上げて車に乗り込んだ。  トランプ氏は病院で治療を受けた後、東部ニュージャージー州に移動した。自身の交流サイト(SNS)で「右耳の上部を貫通する銃撃を受けた。亡くなった参加者の家族に哀悼の意を表したい」とコメントした。  共和党は15日から、中西部ウィスコンシン州でトランプ氏を正式に大統領候補に指名する党大会を開催。トランプ氏の陣営は、同氏が予定通り党大会に出席するとの声明を出した。

右耳から血を流しながら、警護隊に囲まれ降壇するトランプ前大統領=13日、米東部ペンシルベニア州バトラー(AP=共同)

 バイデン大統領は13日、「米国に暴力を許す場所はない。国として団結し、これを非難する」と声明を出した。トランプ氏とも電話で会談し、対応に当たるため滞在先からホワイトハウスに戻った。バイデン氏の陣営は事件を受け、選挙のテレビ広告などを一時停止すると明らかにした。  ◇  ◇

◆直前にライフルを持った不審者情報、共有に問題か

 演説中に銃撃を受けたトランプ氏は、演壇から約150メートルの距離にある建物の屋上に身を隠していた容疑者の男にライフルで狙撃された。射程圏内から発砲を許したことで、共和党議員からは警護の不備を指摘する声が出ている。  大統領選の有力候補者のイベントは会場周辺を含め、厳しい警備体制が敷かれ、来場者への手荷物検査なども徹底される。事件が起きた集会には大統領警護隊(シークレットサービス)の対狙撃班などを動員。捜査当局によると、30〜40人の州警察官らも配置されていたという。  米メディアによると、男は会場の広場に隣接する工場の屋上からライフルで複数回、発砲した。連邦捜査局(FBI)の特別捜査官は、会場外とはいえ、警備の網をかいくぐって約150メートルの距離から銃撃したことを「驚くべきことだ」と語った。

◆警護隊長官の公聴会出席を求める声も

 イギリスのBBC放送は、トランプ氏が登壇する5分前にビルの屋上にライフルを持った不審者がいることを警察に指摘したとの目撃者の声を報じており、周辺の監視や情報共有の体制に問題があった可能性がある。  米メディアによると、下院監視・説明責任委員会のコマー委員長(共和党)は「多くの疑問があり、米国民は答えを求めている」と述べ、大統領警護隊長官の公聴会への出席と調査報告を求める考えを示した。(ワシントン・鈴木龍司) ▶次のページは…あの時何が起きていた?「銃弾が私の皮膚を裂き…」 前のページ
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