世界最多の人口を抱えるインドの自動車市場で日本、中国、韓国や地場のメーカーがシェア拡大にしのぎを削っている。3期目入りしたモディ政権は雇用創出や貿易赤字の削減に製造業の振興策を打ち出し、自動車産業はその中核となるからだ。特にシェアトップのスズキはトヨタ自動車との連携を強化しつつラインアップを拡充。牛ふんを燃料に利用するバイオガス事業を進めるなど脱炭素戦略も打ち出している。(斎藤航輝、ニューデリーで藤川大樹)

◆スズキ現地販売店が売り込む「CNG車」とは

 最高気温が45度を記録した6月中旬の週末。首都ニューデリー近郊の北部ハリヤナ州にあるスズキの現地子会社マルチ・スズキのショールームは地元客でにぎわっていた。販売員は飲料水を差し出すと、「売れ筋は、新型『スイフト』や『ワゴンR』の圧縮天然ガス(CNG)車です」などと熱心に売り込んでいた。

ショールームに展示された小型車「ワゴンR」のCNG車(藤川大樹撮影)

 シェアトップとはいえ、2023年度は41.6%。60%を超えた1990年代後半に比べて見劣りする。それでも昨年度は5年ぶりに上昇に転じ、50%回復に光明が差し始めた。

◆走破性の高さが人気、2台に1台はSUV

 背景にあるのは、スポーツタイプ多目的車(SUV)の強化だ。経済成長に伴い中間層が拡大。道路状態が悪いことも手伝い、高価格であっても走破性の高いSUVの市場が急速に広がり、今や乗用車の2台に1台をSUVが占める。  SUV市場では韓国勢や地場メーカーが先行し、小型車を売りにするマルチ・スズキは苦戦を強いられていた。反転攻勢を狙う同社は22年、トヨタの現地法人の工場を活用し、マルチ・ブランドのSUVの生産を本格化。昨年にも「フロンクス」など新型2車種を相次いで投入した。  この結果、昨年度のSUV市場でのシェアは2022年度の12.1%から22.4%へと大きく伸長。2025年にはハリヤナ州に同国で4カ所目となる新工場を稼働させ、SUVの生産を強化する計画で、スズキ首脳は「SUVでもシェア4割はほしい」と意気込む。

◆価格は割高でも、燃料の安さと低燃費が売り

 SUVの拡販などで確保した収益は、電気自動車(EV)やバイオガスの生産に向けた設備投資、研究開発に振り向ける。インド政府は脱炭素に向け、EVの普及に力を入れるが、スズキはEVに限らず多様な選択肢を提供する「マルチパスウェイ」戦略を採る。

ニューデリーにある牛舎。インドには3億頭の牛がいるとされる(藤川大樹撮影)

 特にガソリン車より温室効果ガスの排出量が少ないCNG車への期待は高い。車両価格はワゴンRの場合、ガソリン車より9万ルピー(約17万円)高いものの、低い燃料価格と高い燃費性能で「数年以内に差額を吸収できる」(スズキ広報)という。2023年度はマルチ・スズキの新車販売の27%をCNG車が占めた。  西部グジャラート州では2025年以降、インドに3億頭いる牛のふんを原料とするバイオガスの生産プラントを新設し、精製したガスをCNG車の燃料として供給する計画。EVは2024年度内に生産を始め、2030年度までに6車種を投入する。 

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。