【ミルウォーキー(ウィスコンシン州)=鈴木龍司】米中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーで開かれている共和党大会は2日目の16日、党候補に正式指名されたトランプ前大統領(78)と最後まで指名を争ったヘイリー元国連大使(52)が演説し、トランプ氏への支持を訴えた。演説は銃撃事件で負傷したトランプ氏が党の結束を打ち出すために要請した。

◆ヘイリー氏「トランプ氏を強く支持する」

 ヘイリー氏は演説で「(トランプ氏から)団結の名の下に演説を依頼され、喜んで引き受けた」と説明。外交や安全保障、国境管理の厳格化などの政策を評価し、「トランプ氏を強く支持する」と表明。11月の大統領選に向けて、挙党一致態勢を演出した。

米アイオワ州クライブの党員集会で演説するヘイリー元国連大使=1月(淺井俊典撮影)

 ヘイリー氏はトランプ氏の過激な主張を敬遠する党内の穏健派の受け皿となり、政党支持なし層からも一定の支持を得ており、トランプ氏への支持拡大が期待されている。  米メディアによると、ヘイリー氏は当初、党大会に招待されていなかったが、13日の銃撃事件後にトランプ氏が電話で演説を直接依頼した。ヘイリー氏はこれに応じ、大会前に自身への投票を誓約した代議員にトランプ氏への投票を求めていた。トランプ氏はヘイリー氏の演説の開始前に会場に姿を見せ、立ち上がって拍手を送った。  この日は、同じく党候補指名を争った南部フロリダ州のデサンティス知事(45)も登壇してトランプ氏への支持を呼びかけた。  ◇  ◇

◆登壇するヘイリー氏にブーイングも

 4年ぶりの政権奪還を目指す米共和党にとって、トランプ前大統領の「政敵」だったヘイリー元国連大使が党大会で演説したことは、党の結束に向けた格好の演出となった。ただ、大統領候補への指名投票のために集まった各州・地域の代議員からは、11月の本選挙で有利になるといった割り切った声が目立ち、党が「トランプ党」と化す中、勝利目当ての急造感は否めない。(ミルウォーキーで、鈴木龍司)  16日、ヘイリー氏が登壇すると、一部の歓声をブーイングがかき消した。会場が静まるのを待つように語り始めた同氏が「トランプ氏に100%同意する必要はない。国を救うためには共和党の結束が不可欠だ」と訴え、トランプ氏への支持を断言すると、聴衆は総立ちになった。

2月、米サウスカロライナ州で開かれたヘイリー氏の集会の会場で、トランプ支持を呼びかける支援者(鈴木龍司撮影)

 党の候補指名争いで、数少ない反トランプ派として穏健派の支持を得たヘイリー氏。かつては「共和党の有権者にはトランプ氏に深い懸念を抱く人が多い」と攻撃し、撤退後も「私に投票した人がそのまま支持すると決めつけず、手を差し伸べることが賢明だ」と注文を付けた。

◆銃撃事件後、党内融和に動いたトランプ氏

 トランプ氏も交流サイト(SNS)で「ヘイリー氏は副大統領の候補に挙がっていない」と投稿するなど、突き放すような言動を展開してきた。  ところが、トランプ氏は銃撃された後に一転、党内の融和を声高に主張。民主党のバイデン大統領が高齢不安による党内の撤退圧力にさらされる中、攻勢を強めるため、党大会にヘイリー氏を招いた。  党大会に集まった代議員にはヘイリー氏の支持表明は「得策」との受け止めが多い。南部テキサス州のマット・モンテスさん(41)は「今は(本選の)11月に向けて努力する時期。内輪もめは役に立たない」と冷静に語った。

◆「結束」優先、政策や理念は後回し

トランプ氏(2022年)

 中西部イリノイ州のローリー・シェーファーさん(64)は「ヘイリー氏のことは好きではないが、支持者を引き込めるならそれで良い」と評価。「トランプ党」とも言われる現状について「単なる政党ではなく、今は国を取り戻すための運動だ」と語り、ヘイリー氏の手腕や政策には関心を示さなかった。  ヘイリー氏や、同氏とともに演説した南部フロリダ州のデサンティス知事らにとっては、それぞれ党内で影響力を残す思惑もあるとみられる。政策や理念を後回しにした急ごしらえの「結束」がどこまで深化するかはまだ見通せていない。 

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