北朝鮮は2024年に入り、金正恩総書記の妹・与正氏が拉致問題に関する談話を立て続けに発表するなど動きを見せている。拉致被害者家族会の代表で、1977年に新潟市で拉致された横田めぐみさんの弟・横田拓也さんがインタビューに応じ、被害者帰国への期待と、姉・めぐみさんへの思いを語った。

13歳で北朝鮮に拉致された横田めぐみさん

1977年11月15日、新潟市で中学校の下校途中に拉致された横田めぐみさん(拉致当時13歳)。

横田めぐみさん
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横田拓也さんは4歳年上の姉について「普通の家庭の思い出は山ほどある。救出活動にも使われている着物の写真を撮ったとき、めぐみの前で双子の兄弟は座って見ていた。(着ているものは)母の着物なんだと、おませな気持ちで撮られていた姉の姿を覚えている」と回想した。

横田めぐみさんの弟・拓也さん

白い雪と赤い着物のコントラストが印象的な一枚は、1977年の正月に、2020年に亡くなった父・滋さんが新潟市の自宅前で撮影したもの。

背筋を伸ばしてカメラを見つめるめぐみさんの視線の先には、双子の弟・拓也さんと哲也さんもいたという。

この10カ月後、横田家は北朝鮮工作員の拉致によって「普通の家族」としての形を失うことになる。

“拉致問題”大きな局面に「兆し見えてきた」

めぐみさんの父・横田滋さんを初代代表とする拉致被害者家族会。滋さんも、2代目代表の飯塚繁雄さんも帰らぬ人となった。

横田めぐみさんの父・滋さん

2021年に3代目の代表に就任したのが横田拓也さんだ。

めぐみさんを含む被害者全員の帰国を求め、活動の最前線に立つ中、拓也さんは今この時を大きな局面と捉えている。

「過去の時間の止まった流れからすると、兆しが見えてきた。その動き自体は、楽観視は禁物だが期待はしたい」

“日朝首脳会談”実現は… 北朝鮮が立て続けに談話発表

元日の能登半島地震後には、金正恩総書記が岸田首相に宛てて見舞いの電報を。

2月15日には、金総書記の妹で副部長の金与正氏が「日本が解決済みの拉致問題を障害物としなければ、岸田首相が平壌を訪問する日が訪れることもあるだろう」との談話を。

3月25日には「最近も岸田首相ができるだけ早期に金総書記と直接会いたいとの意向を伝えてきた」という旨の談話を発表した。

早期の日朝首脳会談を目指している岸田首相は3月25日の談話について、「金与正副部長の談話については承知している。私は、これまでも金正恩委員長とのトップ会談が重要であると申し上げてきた」とだけ述べた。

岸田首相

また、「日朝首脳会談は早期に実現するか?」という記者団の問いに、「相手のある話。いま決まっていることは何もない」と答えている。

与正氏 日本側との接触を拒否…「焦りあるのでは」

日本と北朝鮮の水面下交渉については、2023年11月、岸田首相が国民大集会の場で「様々なルートを通じて様々な働きかけを絶えず行い続けている」と明かした以外、政府が交渉の進捗について触れたことはない。

北朝鮮側から水面下交渉が表面化したという点で、与正氏の談話は注目すべき点がある。

拓也さんは、「もしかしたら水面下交渉が日本側からの一方通行の話であった可能性が否定できない中で、肩書きが副部長とはいえ、ロイヤルファミリーの一人である与正氏が日本側の要求に言及したことで、北朝鮮の中枢部に日本側の意向や要求の内容が伝わっていることが分かった。その点においては大きな前進であろうと思っている」と見解を示した。

ところが、与正氏は水面下交渉について言及した翌日の3月26日に「日本側とのいかなる接触も拒否する」という主旨の談話を立て続けに発表した。

これについて拓也さんは、「彼らの国の中で焦りがあるということ。威嚇的表現を強めれば強めるほど、与正氏の心の内に揺らぎや焦りを見て取ることができる。彼女が進めたい方針と北朝鮮当局の中枢部が進めようとしているところに、若干の乖離や揺らぎがあるのではないか」と分析。

加えて、「北朝鮮当局は日本の政権が裏金問題などを受け、弱っているときに自分たちが主導権を握るような発言をすれば、日本が譲歩して日朝交渉に食いついてくるのではないかと読んでいる部分があると思う。ただ、岸田首相は与正氏が『政権浮揚のために拉致問題解決を進めている』と言っているような軽い発想で取り組んでいるわけではない。そこは北朝鮮当局も読み間違えないほうが良いのではないか」と言葉に力を込めた。

母・早紀江さん「今までと違う希望を持っている」

外交上の駆け引きが続く中、この動きに希望を見いだしているのは、めぐみさんの母・早紀江さんだ。

2024年3月初旬に首相官邸を訪れた際、「岸田首相と金正恩総書記との間に今までと違った緩やかな思いが重なっていくのかなと、ちょっと希望を持っておりました。岸田首相の間に、必ずこのことは動かしていただきたい」と悲痛な思いを訴えた。

横田めぐみさんの母・早紀江さん

早紀江さんが拉致問題解決を訴える首相は岸田首相で12人目となる。

2023年2月には入院するなど、体調を崩していた早紀江さん。拓也さんは、母の近況について「今はもう元気で心配していないが、88歳という年齢の現実には逆らえない」と語った。

親世代は2人に… 解決急ぐため新たな活動方針発表

有本恵子さんの父・明弘さん(95)は、首相との面会や集会の度に、車いすで兵庫から上京している。

有本恵子さんの父・明弘さん

2人のみとなった親世代が体調に不安を抱える中、拉致被害者家族会と救う会は解決を急ぐため、踏み込んだ決断を下した。

「親世代が存命のうちに全拉致被害者の一括帰国が実現すれば、日本が北朝鮮にかけている経済制裁の解除に反対しない」という新たな活動方針を打ち出したのだ。

拓也さんは「北朝鮮に対する思いは憎しみと悔しさと怒りしかない。今後の交渉では対話と圧力という2つの側面が要るが、岸田首相には、私たちの怒りの気持ちを忘れずに外交交渉を進めてほしい」と苦渋の決断に至った思いを語った。

姉に再会したら…「ごめんねという言葉しか出ない」

46年前の拉致を境に描けなくなった家族の思い出。そのときに止まった時計の針を進めることができるものがあるとすれば、それは家族の再会だ。

拓也さんは、めぐみさんが帰国したとき、どんな言葉をかけたいと思っているのだろうか。

「私は『お帰り』という言葉の前に『ごめんね』という言葉しか多分出ないんだろうと思っている。結果的に46年間、自由のない国で人質として拘束されている現実を変えることができていない。『本当に待たせてしまってごめんなさい』という言葉で詫びてから、多分もう、その後は言葉にならないのではないかと思っている」

4月の日米首脳会談で、バイデン大統領は日朝首脳会談への支持を表明した。

北朝鮮からのアプローチが続く今、「自身の手で拉致問題を解決する」と述べる岸田首相への期待は、かつてないほど大きくなっている。

(NST新潟総合テレビ)

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