【ワシントン=鈴木龍司】11月の米大統領選に向けて、民主党が連邦最高裁の改革案を打ち出した。最高裁は共和党のトランプ前大統領の在任中に保守化が進み、人工妊娠中絶の権利を制限する判決などを巡ってリベラル派を中心に不満が高まっている。議会の下院は共和党が優勢で、法整備は難しいが、民主党は「司法の危機」を訴え、大統領選の争点にする考えだ。

◆女性の「妊娠中絶」選ぶ権利を覆したアメリカ最高裁

アメリカのバイデン大統領(2023年6月撮影)

 最高裁は9人の判事のうち、トランプ政権下で指名された3人を含めて6人を保守系が占める。2022年には人工妊娠中絶を選ぶ憲法上の権利を認めた1973年の「ロー対ウェード」判決を覆し、「保守寄りの判決」との批判が出た。  バイデン大統領は7月29日、南部テキサス州での演説で「ここ数年の最高裁の極端な判決は、公民権の原則を根底から覆している」と主張。判事の任期を終身制から18年間に改め、大統領が2年ごとに1人ずつ指名して交代を促す改革案を発表した。判事の過剰接待疑惑を踏まえ、強制力のある倫理規定の適用も求めた。  バイデン氏は大統領が公務中に犯した罪を免責する特権の撤廃に向けた憲法改正も提案。最高裁は7月1日、トランプ氏が21年の議会襲撃事件を誘発したとして起訴された事件の裁判で、保守系判事6人全員の支持で「免責特権」を認める判断を下した。バイデン氏は「大統領の権限の乱用を防ぎ、最高裁の信頼を回復できる」と改革の意義を強調した。

◆トランプ氏の対抗馬・ハリス副大統領も支持

 大統領選で民主党の候補指名を確実にしているハリス副大統領も声明で「最高裁の信頼の危機は明らかだ」と改革案を支持。「民主主義では、誰も法の上に立つべきではない。在任中の犯罪を免責される元大統領がいないようにしなければならない」とトランプ氏への攻撃を強めている。  これに対し、共和党のジョンソン下院議長は交流サイト(SNS)で「改革案は権力のバランスを崩し、米国民の司法制度への信頼を損なう」と反発。下院は共和党が多数を占めており「(改革案は)最初から失敗に終わる」と一蹴した。  ただ、米調査会社ギャラップの7月の世論調査では、最高裁への支持率は43%にとどまり、不支持は52%に上った。21年9月以降、不支持が支持を上回っており、最高裁を巡る議論が大統領選の行方に影響する可能性がある。 

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