<ミャンマーの声>
 ミャンマーの軍事クーデターから1日で3年半がたった。国民の反発は根強く、地方を中心に国軍と民主派や少数民族との内戦が続いている。日本で報じられる機会は少ないが、北西部チン州もその一つだ。軍政に抵抗する少数民族チン人らが結成した組織の幹部が7月下旬に来日。「こちら特報部」の取材に応じ、国軍の攻撃にさらされる市民の窮状を訴えた。(北川成史)

5月、チン州の山中に逃れたミャンマーの避難民ら(CDF-Kanpetlet提供)

◆6万人以上がインドへ脱出

 「私たちの推計では、クーデター後、チン州で6万人以上がインドに逃れ、数十万人が国内避難民になった」。「暫定チン民族諮問評議会(ICNCC)」のケントン・リン議長は、取材にこう語った。ケントン氏はチン州の現状を日本の政府関係者や国会議員に伝え、支援を得る目的で来日した。  2021年2月1日のクーデター後、チン州では早い時期から抵抗闘争が広がり、同年4月、チン人の政治家や武装勢力などがICNCCを設立した。ICNCCは、軍政に対抗する民主派や少数民族が樹立した「挙国一致政府(NUG)」にも加わっている。  ケントン氏は「現在、州土の70~75%を抵抗勢力が支配している」と闘争の成果を強調する。ただその代償で、チン州は空爆など国軍の激しい弾圧を受けており「生活環境は悪化している」と懸念。「支配地域には基礎教育レベルの子どもが7万人以上いるが、設備や学習用具が足りない。学校や病院まで空爆の標的になっている」と危惧する。

チン州の現状について語るICNCC議長のケントン・リン氏=東京都千代田区で

 このため人道支援が喫緊の課題だが、資金難に直面している。「安全上の理由から多くの国際NGOがチン州を離れた。国外のチン人に資金を頼っているが、彼らにも生活がある」

◆反軍政組織の内部でも衝突

 ミャンマー国内のチン人の足並みに乱れも生じている。2023年、ICNCCの主要構成員だった武装勢力「チン民族戦線(CNF)」が、運営方針や主導権を巡って離脱。現在はICNCC側の武装勢力と衝突している。  ケントン氏は「今は軍政と闘うため団結すべき時で、無益な争いに労力を費やすべきではない」と憤る。CNFとの関係修復を模索中だという。

国軍の空爆に遭った学校=3月、ミャンマーのチン州で(地元住民組織提供)

 「国際社会に求めるのは、何よりもまず、軍への政治的な圧力の継続。そして人道支援」とケントン氏は要望する。人道支援は、隣国からの越境型など国軍を経由しない方法が重要だとし、インドやタイなど国外に逃れた難民の保護も呼びかけた。  経済制裁を発動した欧米と一線を画し、クーデター後も政府開発援助(ODA)の既存案件を継続している日本に対しては「わずかな関わりでも軍政に正当性を与えることを忘れないでほしい」とくぎを刺した。

 チン州 2014年の国勢調査で人口は約48万人。多くの少数民族が暮らし、総称で「チン」とグループ化される。インドやバングラデシュに接する山岳地帯に位置し、ミャンマーで最も貧しい地域。第2次世界大戦中にインパール作戦で敗走し、行き倒れた旧日本兵の遺骨が残る場所でもある。



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