ウクライナは今月、ロシアの侵攻開始から2年半となる。首都キーウ(キエフ)在住のIT技術者ルスラン・プルィルィプコさん(43)が3日夜、オンライン取材で街の様子を伝えた。パリ五輪の間も戦闘は続き、影響で猛暑の中、停電する。「平和の祭典」という五輪の理念に「言葉だけなのか」と嘆く。(大野孝志)

巡航ミサイルが着弾し、街から煙が上がった=7月8日、ウクライナ・キーウ市内で(ルスランさん提供)

◆猛暑に追い打ちをかける3つの打撃

 「部屋の中も外も30度じゃ、眠れない」。思わず苦笑いする。涼しいはずのキーウにしては珍しく、この2週間、最高気温が40度に迫る日が続いたという。  猛暑をさらに厳しくしているのが「三つの打撃がある」という停電。エアコンを使えない。ポンプが止まるので水道も止まる。エレベーターが動かず、集合住宅の上層階まで、暑いのに階段を上がらなければならない。「最近は電気が来るのが朝晩各2時間。計画的に停電するといわれているが、当てにならない」  店に食料は豊富で、値上がりしていても高騰してはいない。ただ、冷蔵品には要注意。冷蔵庫が止まっているからだ。喫茶店で氷入りの飲み物は期待できず、最低限のメニューのみ。大手スーパーは発電機で対策し「暑くてたまらない時は、大きなスーパーの精肉売り場で涼むんだ」。

オンラインでキーウの様子を伝えるルスランさん

◆五輪開幕後の夜、90機のドローン攻撃が

 停電の原因は、送電設備への攻撃。加えて送電に従事する人が戦闘に動員され、人手が少ない。猛暑で電力需要が高まり、需給バランスが崩れて停電する。病院や地下鉄には優先的に電気が送られているものの、家庭だけでなく工場にも影響する。「やっと涼しくなってきた。停電もなくなるだろう」と期待する。  空襲警報はほぼ毎日。小児病院などが攻撃され、40人以上が死亡した7月8日、同時にキーウ市内の5カ所で煙が上がった。職場から2キロほどの所にも着弾。警報と迎撃の爆音で気付き、地下駐車場に走って逃げた。五輪開幕後の7月末の夜にも約90機のドローン攻撃があり、警報は午後9時から翌朝まで続いた。

攻撃で破壊された建物=ウクライナ・キーウで(ルスランさん提供)

◆スポーツ選手も前線で戦い、死んでいる

 ウクライナ選手もメダルを獲得した五輪は「ニュースで流れるが、それどころじゃない。優先されるのは、スポーツや娯楽ではない。平和だった時のような盛り上がりが、あるわけがない」と首を振った。「前線ではキーウと比較にならない激しさで戦闘が続いている。スポーツ選手も前線で戦い、死んでいる」  2023年版の五輪憲章に「オリンピズムの目的は、人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てること」とある。ルスランさんが、険しい表情で語った。「国際オリンピック委員会(IOC)や国連には、戦争を止める努力をしてほしかった。『平和の祭典』が言葉だけになっている。悔しい」


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