東京・銀座に開店した中国の独立系書店「単向街書店」=白石徹撮影
中国人富裕層の日本移住が加速している。共産党政権による監視社会の息苦しさ、景気の低迷、将来の生活設計が描けない不安感などが大陸脱出の背景にあるようだ。 「中国の有名大学で博士号を取得して米欧に留学した人材、金融や投資企業のエリート、企業経営者らから問い合わせが相次いでいる。今後もどんどん増えますよ」。東京都内で不動産仲介業を営む上海出身の社長(59)は時代の動きに敏感だ。 自宅マンションの購入希望は港区、千代田区、中央区など都心に集中。1億5000万円までの高級物件が人気という。上海は90平方メートルで2億円が相場とされ、日本の高級マンションは値ごろ感がある。 この社長によると、中国企業が自社ビルを港区内に建てるため、40億~50億円の土地購入を依頼されたこともあるという。いずれ日系企業として活動するために日本人社員を積極的に採用し、役員登用を進める企業も。日本の永住権取得の相談もたびたび受けるようになった。 中国から海外への送金は1人年間5万ドル(約750万円)の制限があるものの、親類や友人らに頼めばクリアできる。管理が厳しくなった香港の銀行経由の送金は減り、非合法の「地下銀行」は使われなくなっている。 新型コロナウイルス感染拡大による経済活動の停止、経営環境の悪化は予想以上に大きかった。さらに共産党政権への不信感、恐怖感が富裕層を海外移住に駆り立てる。 2500万人の商業都市、上海もロックダウン(都市封鎖)になり、2022年3月末から5月末まで外出禁止。この強権措置は11月、言論の不自由を表す「白紙運動」の騒ぎになり、全国に飛び火した。天安門事件以来の「民主化運動」との指摘もあった。 脱出する富裕層が急増したのは、この「ゼロコロナ」政策が撤回された22年12月以降のこと。海外渡航が解禁されると出国者が相次いだ。 かつて欧米やカナダ、豪州を目指した富裕層は日本を選択。「近い」「安い」だけでなく、安心・安全な生活、教育環境も評価される。厳しい米中対立が人種差別を招き、欧米社会への憧れは薄れた。 日本政府は「高度外国人材」として専門・技術、経営・管理などの分野に秀でた人材受け入れを進めている。出入国在留管理庁によると、23年は約2万4000人に上り、中国は1万5757人と全体の約66%を占めた。コロナ禍前の18年に比べ倍増した。 中国人の富裕層が増え、「ガチ中華」と呼ばれる料理店も増えた。さらに在日エリート層の要望に応えるように東京・銀座には昨年8月、中国の独立系書店「単向街(たんこうがい)書店」が出店し、中国人ネットワークの拠点になっている。 日本に暮らし続けていると気付かない良さもたくさんある。移住者の増加は日本を見つめ直すきっかけになる。
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