【バンコク=藤川大樹】内戦が続くミャンマーでクーデター以降、学校へ被害を与えた攻撃が少なくとも174件に上ることが、英国を拠点とする非政府組織(NGO)の調査チーム「ミャンマー・ウィットネス」の分析で分かった。ミャンマーでは学校への攻撃が増加傾向にあり、とりわけ国軍の空爆による被害が甚大だという。

◆国軍の空爆で壊滅的な被害

 調査チームは1000枚を超える写真や動画を分析し、「十字砲火を浴びる学校」と題する報告書を公表した。

7月21日、東京新聞のオンライン取材に応じるKNDFのウィリアムトゥッカウン氏=藤川大樹撮影

 報告書によれば、ミャンマーではクーデターが起きた2021年2月~今年4月末、133校の学校が空爆や重火器、地上攻撃などの被害に遭った。一部は繰り返し被害を受けていた。  このうち国軍は少なくとも90件、民主派の武装組織「国民防衛隊(PDF)」は77件の攻撃に関与していた。国軍の攻撃は主に空爆のため、半数弱の学校が壊滅的な被害を受けた。一方、PDFの攻撃は弾薬の積載量が限られるドローンのため、被害は軽微だった。いずれも被害の多くは周辺にも及んでいることから、学校を直接標的にしたわけではなく、巻き添えになった可能性が高い。

◆「教育の機会がますます抑圧」

 地域別では、ザガイン地域の学校の被害が最も多く、シャン、カイン、カヤの各州が続いた。死者64人、負傷者106人の報告を集めたが、映像の検証や位置情報の特定などが難しく、確認された死傷者はわずかだった。  報告書の公表を受け、英国の外務省の担当者は「データは明白だ。ミャンマーでは学校が破壊され、市民が深刻な被害を受け、教育の機会はますます抑圧されている」と警鐘を鳴らし、特に国軍に空爆をやめるよう訴えた。   ◇  ◇

◆「軍が占拠していたのでやむなく攻撃」

 ミャンマーでは、国際法で保護されるべき学校が地上戦の舞台となる事例も報告されている。東部カヤ州では昨年11月、国軍部隊がロイコー大学内に陣取り、民主派の武装組織「カレンニー国民防衛隊(KNDF)」との間で激戦となった。

ミャンマー東部カヤ州で、ロイコー大学構内の損壊とKNDFのメンバーを示す映像=ミャンマー・ウィットネスの報告書から抜粋

 「近くの刑務所の人々を助けるため、大学を通らなければならなかった。ただ、軍が占拠していたため、やむを得ず攻撃した」  KNDFで一つの部隊を率い、ロイコー大での戦闘に加わったウィリアムトゥッカウン氏(31)は東京新聞の取材にそう明かした。

◆国軍は教員たちを人質に

 KNDFなどの抵抗勢力は昨年11月11日、州都ロイコーを掌握するため、大規模な作戦に着手。13日、ミャンマー陸軍の軽歩兵大隊2隊が駐留するロイコー大に突入した。  同氏の証言によれば、国軍は「造りが頑丈な」学内の校舎を作戦拠点として使用。300〜400人の兵士がおり、教員らを人質に取っていた。KNDF側は当初、敷地内で教員らが捕らわれていることを知らなかったという。  戦闘の末、国軍側は1隊がほぼ全滅するなど壊滅的な被害を受け、残る兵士は翌14日に降伏した。救出された教員らは「ありがとう」「助かった」などと感謝の言葉を口にした。人質に負傷者はおらず、KNDF側は計6台のトラックで安全な場所へ送り届けた。 

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